凪~小説・写真サイト~                    
  作品   レビュー   写真   日記   プロフィール
                     


2010年3月 8日

伊坂幸太郎「あるキング」


あるキングあるキング

徳間書店 2009-08-26
売り上げランキング : 8532
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

1年位前に出た伊坂さんの本を読みました。
順番としては、多分「ゴールデンスランバー」や「モダンタイムズ」の次あたりに書かれたものでしょうか。

一言でいうと、
「やっぱり、2作、力作を書いたら、エネルギーの充電期間が必要ですよね」
というような作品でした。

伊坂さんの良さがどこにもなかった。

ストーリーは、非常に弱いプロ野球チームのファンである両親が、息子を野球選手にして、そのチームの選手にしようとする話......かな。
ただ、その「息子」が生まれつき、非凡な才能に恵まれているので、プロになるのも、活躍するのも当たり前すぎて、うむ......って感じ。
才能がある分、環境には恵まれていないという設定なのだろうけれど、「困難を克服して成功する」という青春もののよさもなく、純文学的なテーマの深さもなく......なんだったんだろう??? と......。

その話に「マクベス」を被せようとする試みは、おもしろいと思うけれど、「マクベス」はあまりに有名なので、逆にちょっとひいてしまった。
でも活字離れの叫ばれる今、マイナーな作品をオマージュしても、誰も気づかないだろうし、文学を成立させるのは難しくなっているのかもしれない。

 

プロ、特に売れている専業作家の場合、どんなコンディネーションでも、書かないといけないんだろうな、と思うので、別に作品にむらがあってもいいとは思うけれど、伊坂さん自身が、こういう作品が「いい」と思っているなら、「伊坂さんの本は全部読むぞ」という想いは続かないかもしれない。

「チルドレン」「重力ピエロ」「アヒルと鴨のコインロッカー」「ラッシュライフ」「オーデュボンの祈り」のような作品がまた読みたい。
というのが、ファンの切実な気持ちです。

2010年2月13日

東野圭吾「殺人の門」


殺人の門 (角川文庫)殺人の門 (角川文庫)

角川書店 2006-06
売り上げランキング : 25776
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

決して前向きな明るい話ではなく、どちらかというと、暗い気持ちになってしまうような話なのだけれど、それでも、ぐいぐい先へ先へひっぱっていく物語の力に導かれ、非常に楽しく読めた本だった。

テーマは、「人はどんなとき、人を殺すのか」。
主人公は子供の頃からそんな「人を殺す心理」に興味を持つ。
彼が、唯一継続して殺意を感じるのは、小学校時代からの「友達」だった。
この小説のストーリーの核は、結局主人公はその「友達」を殺すのか。

でもこの「友達」、相当な曲者。
非常に小賢しい。
ただ、非常にむかつく奴で、主人公の人生はそいつの存在のせいで、何度も狂わせられるので、読者もその「友達」に殺意に近いものを感じたりするのだけれど、それでもどこか憎みきれない、少し複雑なキャラクターが、非常に巧みに描かれている。

細かい部分まで気を遣って、精密に組み立てられている作品だった。

私は、基本的には、もっと人の善意を信じられるような作品のほうが好きだけれど、こういう作品は、はらはらしながら楽しんで読めていい。
先が気になる小説が手元にあるときは幸せだ。

そして、こういう、人物を細かく丁寧に書き出した、ストーリーより人物に重きを置いた小説を読むと、しばらくその登場人物たちのことが、読み終えたあとも気になり続けてしまう。

2010年2月 7日

森絵都「風に舞いあがるビニールシート」


風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

文藝春秋 2009-04-10
売り上げランキング : 10027
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

良かった。
すごく良かった!

この作品は直木賞を獲ったもので、一時期話題になっていたから気にはなっていたのだけれど、森さんは「児童文学作家」の印象が強く、前回読んだ「DIVE」は、なかなかおもしろく読めたのだけれど、子供向きで、マンガを読んでいるようなテイストだったので、正直、今回の作品もそんなに期待していなかった。

でも、こんなにタッチからテイストからすべてを変えられるのだなと驚くくらい、「児童文学」の色はまったくなく、非常に上質な、大人向けの、深みのある作品集だった。

この本は6つの短編作品で構成されていて、6つの作品にはなんのつながりもない。
この6つにしても、それぞれ違う作家が書いたオムニバスと言われても納得してしまいそうなくらい、全然視点も書き方も違う。

ただ、帯に書かれているように「大切な何かのために懸命に生きる人たちの物語」という共通のテーマにだけ貫かれている。

最後の「風に舞いあがるビニールシート」は、難民を支援する国際機関を舞台にした話だし、6つのなかには決して明るくはないテーマも含まれている。
すべてが思うようにいくわけではないし、むしろ、思うようにいかないことのほうが多い。
普通の大人の人生がそうであるように。
ただ、そういう上手くいかないことの多いなかで、それでも必死に何かを守ろうとしたり、何かを得ようとしたりして、みんな、頑張っている。
その一生懸命さや、まっすぐであるがゆえの不器用さなどが、非常に良かった。
ひとつひとつの話を読みながら、自分の人生にも上手くいかないことは色々あるけれど、もっとできることを頑張っていこう、と明るい気持ちになれた。

先が気になったり、読んでいて楽しいと思える作品はたくさんある。
でも、「もっと頑張ろう」とか「きっと生きていればいいことあるよね」とか、小説の世界を超えて、自分の抱える世界にまで影響を及ぼしてくるような作品には、久しぶりに出会った気がした。
そして、本来、小説を読む楽しみって、こういうものだったな、なんてことを思い出したりした。
(昔大好きだった、鷺沢萌さんの「海の鳥・空の魚」を思い出し、久しぶりに読みたくなった。あの本も、日常の中で一生懸命に生きる人たちを主人公にした、元気をくれる作品だった)

正直、1作目はよさがよく分からなかったけれど、最後の「風に舞いあがるビニールシート」と、『ジェネレーションX」が良かった。「風に舞いあがる......」は、良かったけれど、ここから読んだらダメだと思う。色々な人の懸命な人生を味わった最後に、この話を読むことに意味がある気がした。

本当、お勧めなので、是非、読んでください!

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」


ゴールデンスランバーゴールデンスランバー

新潮社 2007-11-29
売り上げランキング : 150
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

本屋大賞受賞作「ゴールデンスランバー」をようやく読んだ。
こういう重たい単行本はなかなか持ち歩く気にならないので、家でちょっとずつ読むことになり、その結果、なかなか読み終わらないのでだけれど、非常に伊坂さんらしい、楽しい本だった。

ストーリーは、「首相暗殺犯に気づいたら仕立て上げられ、必死に逃げる」と、簡単に説明するとそれだけだけれど、「魔王」などから続く、政治的な力に対する想いがテーマになっている。
ただ、真正面からそれを受け止めて書くと非常に暗く重い作品になってしまいそうだけれど、伊坂さんの作品ではそうはならない。
どんな危機的な状況であろうと、冗談を言ったり、思わず笑ったりする余裕が伊坂さんの作品の登場人物には常にある。それがいいのだろうな。

逃げるさなかに起こる一つ一つの出来事が、すべて「ちょっとありえない」感じなのが、「ただ逃げるだけの作品を決し飽きない起伏のある作品に仕上げている。
伊坂さんの作品の魅力は、ストーリーよりも、キャラクターと一つ一つの小さな設定を考える発想力なんだな、ということを改めて感じた作品だった。

伊坂さんの小説は、半分くらいが既に映画化されているけれど、この『ゴールデンスランバー』も近々映画化されるらしい。テレビのCMも良く見るから、配給会社もかなり力を入れているな。

伊坂さんの作品を原作とした映画に堺さんが出るのは、『ラッシュライフ』につぎ、2回目。
堺さんのちょっと飄々とした雰囲気が、確かに伊坂さんのワールドにマッチしそうな気がする。

2010年1月23日

「マンデラの名もなき看守」


マンデラの名もなき看守 [DVD]マンデラの名もなき看守 [DVD]

ポニーキャニオン 2009-04-24
売り上げランキング : 9921
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

TSUTAYAで、「そういえばこの映画見たかったんだよな」と思って借りたのだけれど、見始めて数分で、「見たかったから見に行ったんだ」ということに気づいた(汗)

でも、非常に淡々とした静かな映画なのだけれど、しっかりとした物語の核というか流れがあり、思わず最後までまた見てしまった。

どんな話か簡単にいうと、マンデラ大統領が大統領になる前、南アフリカでは黒人と白人を差別するアパルトヘイトが行われていて、黒人は迫害され、マンデラもずっと刑務所に入れられていた(政治犯として)。

主人公は、黒人の使う言語が分かるということで、マンデラ付きの看守になる。

ただ次第に、「黒人はテロリスト。危険だから、塀の中に入れている」という自分たち白人の考えが本当に正しいのか、分からなくなってくる。

白人は、「黒人は、白人から国を奪おうとしている」と言うが、マンデラが訴えるのは、白人も黒人も平等に権利を持っているということ。

自分たちは、上の人たちの都合のいい思想をただ植えつけられて動いているだけなのではないかと思い、少しずつ、自分の頭で考え、行動するようになる......というような話。

爆破事件も、事故に見せかけた殺人も、なぜか非常に淡々と描かれ、話はただ続いていくけれど、淡々と語られるがゆえに逆にリアルに心に残ったりする。

感動して泣ける、というような感じの作品でもないけれど、最後は心の深いところがちょっとあったかくなるような、そんな映画だった。

「アカルイミライ」


アカルイミライ 通常版 [DVD]アカルイミライ 通常版 [DVD]

メディアファクトリー 2003-06-27
売り上げランキング : 42894
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

以前から気になっていた映画をDVDで見た。

小説だったら「純文学」にカテゴライズされるであろう、エンターテイメント性は希薄な作品。

浅野忠信とオダギリジョーという個性的な俳優2人が「ツートップ」として出ていて、それだけで気になるのだけれど、二人のあの不思議な存在感が、非常に生きた、良い作品だった。

最近、小説のほうは「純文学」の良さが分からなくなってきているのだけれど、映画は、いまだに、こういう、いまいち意味はよく分からないし、特にストーリーがかっちりとあるわけではないけれど、でも、確固たる世界があり、描写が美しい作品に心惹かれる。

特に、クラゲが美しい。
私も、江ノ島水族館に行くと、つい、クラゲコーナーでぼーっとしてしまう人なので......。

好き嫌いは分かれる作品だろうけれど、見てよかったな、と思える作品だった。

三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」


まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

文藝春秋 2009-01-09
売り上げランキング : 1125
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

少し前(2006年)の直木賞受賞作。

最近三浦さんの名前もよく見かけるので、気になってはいたけれど、読んだのは初めて。

とてもしっかりとした世界観があって、世界にちゃんと浸れる作品だった。
ときどき「うわぁ、なんて上手いんだろう」と思える作品というのがあるけれど、三浦さんの上手さは、「上手い」とも意識させない、さりげない上手さの気がする。
本当にリアリティのある上質な作品は、その作り手の技量になど目が向かないくらいしっかりと完成され、そこで完結しているものなのかもしれない、などと思わせるような......。

主人公も、主人公にくっついてくる主人公の同級生も、なんだか危なっかしくて、どこかまともじゃないのだけれど、非常に「愛すべきキャラクター」になっている。

この作品の魅力は、そういった「登場人物」と、そして「まほろ市」という架空の(でも舞台になっている町は明らかにある)場所の魅力なのだろうな。

小さな事件が起こり、1章でひとつずつ解決していっているような、解決せず、すべてがそのまま主人公の背中に乗っかってきているような、不思議な連続感も良かった。

三浦さんのほかの作品も読んでみたい。

柳広司「ジョーカー・ゲーム」


ジョーカー・ゲームジョーカー・ゲーム

角川グループパブリッシング 2008-08-29
売り上げランキング : 11683
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「ダブル・ジョーカー」が去年の「このミステリーがすごい」第2位になったらしいが(第1位は、東野さんの「新参者」)、この「ジョーカー・ゲーム」は、その前編。

柳さんの作品を読むのは今回が初めてだったのだけれど、完成された、かっちりした印象を受ける作品だった。

「スパイ」の話なので、登場人物にもミスが許されないが、それを書くほうにもミスが許されない、という感じか?

なかなかおもしろく読めた。ただ、男の人のほうがこういう作品は好きなのかもしれないな、と思った。

2009年12月19日

東野圭吾「さまよう刃」


さまよう刃 (角川文庫)さまよう刃 (角川文庫)

角川グループパブリッシング 2008-05-24
売り上げランキング : 881
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

東野さんの作品は、外れがないし、作品数も多いし、ということで、しばしば読んでしまう。

「さまよう刃」は以前から気になっていたのだけれど、何度も手にとっては、本屋の棚に戻していたため、「これ、読んだっけ、読んでないんだっけ」と分からなくなり、しばらく放ってあった。

ただこれも映画化されたということで、気になったので買ってみた。
読んでいなかったようで、良かった(笑)

これは、かわいい高校生の愛娘を強姦されて殺された父親が、未成年の犯人ひとりを自らの手で殺し、もうひとりの犯人をも殺すべく、逃走しつつ犯人を捜すという話。

犯人を追う父親の気持ちが非常によく分かり、痛いけれど、でも、良い作品だった。

東野さんのこういう作品は、一ミリでもずれたら完成しない工芸作品のような感じだと思う。

逃走している父親がホテルではなくペンションに泊まるという設定と、最後のちょっとしたひねりには少し不満も覚えたけれど、それ以外は本当に完璧に組み立てられている。

なぜ父親が犯人が誰でどこに住んでいるのかをつきとめられたのか、警察はその謎になかなか迫れないけれど、この部分こそが要で、この設定を作り出したところが、まず、すごいな、と思った。

あとは、この、ちょっとうんざりするような世界を、緻密に書き出していく集中力と、努力と、筆力には、本当に敬意を払いたくなる。

吉田修一「悪人」


悪人(上) (朝日文庫)悪人(上) (朝日文庫)

朝日新聞出版 2009-11-06
売り上げランキング : 1121
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

久しぶりに吉田修一を読んだ。

吉田さんは、上手く純文学とエンターテイメントを融合させている作家のひとりだと思う。

正直、芥川賞受賞作の「パーク・ライフ」を読んだときは、もう二度とこの人の本は読まないだろうな、と思ったけれど、他の本は、結構、エンターテイメントの要素もあり、おもしろく読める。特に「パレード」は、傑作。

この「悪人」は、来年映画化されるようで、文庫本が平積みされていたので、気になって買ってしまった。
大佛次郎賞、毎日出版文化賞をW受賞しているらしい。

これも非常に、純文学的にも読めるし、ミステリーにも読める作品だった。
始めに、女性が殺される。そして、犯人は誰か、ということが、色々な人や、色々な時間軸からの視点で綴られる文章によって、少しずつ分かってくる。
前半は、非常にミステリーの要素が強い。だから、先が気になって、どんどん読んでいける。
ただ、後半は、犯人の「逃避行」の物語になる。

吉田さんはやはりもともと純文学の作家だけあって、非常に描写力がある。町の様子を描くのにも、普通の作家とは違う感性を使っているように思える。だから、福岡・佐賀・長崎という場所と、それをつなぐ道とトンネルが、非常に鮮明に(行ったこともないのに)目の前に浮かぶ。

そういう描写力によって、物語は決してありきたりの陳腐な作品にはならないけれど、でも、正直私は、前半と後半の世界の変化にちょっとついていけず、バランスの悪さを感じてしまった。

買った文庫本には「映画化」という帯が巻かれ、「あの人に出会うまで、こんなに誰かを愛する力が自分にあるなんて思わなかった」という言葉が書かれている。
確かに後半のテーマはこういうことなのだろうけれど、はじめから本当にそれがテーマだったのだろうか、という疑問が残るというか......。
でもこれは、あくまで「映画」のテーマであって、小説のテーマではないということでいいのかな。
多分、吉田さんが一番描きたかったのは、人の多面性じゃないかな、という気がする。
相手によって、人はどんな人間にもなる、と。

アマゾンなどでは評価が高いようなので、私に読みきれていない部分があったのかもしれない。

 

Top ・ Works ・ Photos ・ Diary ・ Profile