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2013年3月 8日

窪 美澄「晴天の迷いクジラ」

晴天の迷いクジラ晴天の迷いクジラ
窪 美澄

新潮社 2012-02-22
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「ふがいない僕は空を見た」の窪さんの2冊目の単行本「晴天の迷いクジラ」を読んでみた。今年の本屋大賞にノミネート中らしい。

 二冊目を読んで確信。私は窪さんの作品の世界観が好きだ。

 この本は、4つの中編小説が集まって1つの作品になったような形になっている。
 1章は、小さな広告制作会社でオーバーワークした結果、うつ病になってしまった20代男性の話。2章は、その会社の女社長の子供時代の話。3章は、その女社長の出身の田舎に生きる中学生の話。そして4章でその3人が集まり、「迷いクジラ」を見に行くことになる、とストーリーが集約されていく。
 迷いクジラというのは、湾に誤って入り込んでしまったクジラのこと。どうにか海に帰そうとするのだけれど、なかなか出ていく気配がなく、このままでは徐々に弱って死んでしまう、と周りの人は心配して見守っている。

 一つの話を二人とか三人の視点から描き、一つの出来事を立体的にしていく手法は、最近はかなりメジャーになっているように思う(始まりは芥川龍之介の「藪の中」か?)。
 でも窪さんの書き方はそれとはちょっと違っている。
 一つの作品を書くとき、たとえその作品に表立っては反映されなくても、大抵の作家は主要な登場人物の年表みたいなものを作っている。どこで生まれたのか、大学を出ているのか、仕事は何をしてきたのか、初めてつきあった異性はどんな人か、得意なことは何か......とか、色々。
 窪さんの作品の構成としては、1章ではわき役だった一人の「年表」が、2章で詳細に描かれる、みたいな感じになっている。1章の出来事と関係あることもあるけれど、関係ないことも多い、みたいな。
 ただ4章で、1章の主人公と2章の主人公が一緒に旅をするのだけれど、たとえばそのとき、2章の主人公である女社長が「今まで色々あって大変だったのよ」と言う。1章→4章と読んでいたら、「まぁ、社長業は大変だろうね」としか思わないだろうし、1章の主人公である男の子は、それくらいにしかとらえないのだけれど、2章を読んでいる読者には、その一言の重みはかなり違って響いてくる。そんな仕組みがすごいな、と。

 ただ窪さんの作品の良さは、構成力だけではない。人間に対する深い洞察力。1章のオーバーワークでうつ病になってしまった男の子の話くらいなら私も書けそうだけれど、2章の世界は自分には書けないな、と思う。でも窪さんは、まったく違う人生を歩んできたような人たちをきれいに書き分け、それぞれの世界をリアルに仕上げている。
 2章、3章は少し痛い話だけれど、非常に心に残った。特に2章の貧しい漁村に生まれた絵の上手な少女が、どうして東京に出てきて、デザイン会社を立ち上げたのか、なぜ社員に「クライアントの要望に応えるのが仕事。自分の好みは関係ない」と言い切るのか......。

 小説を書く人間には、人物設計をしっかりするってこういうことなんだな、と、非常に勉強になる作品ですが、普通の本好きの人にも、お薦めしたい作家&作品です!

2013年1月28日

窪 美澄「ふがいない僕は空を見た」

ふがいない僕は空を見たふがいない僕は空を見た
窪 美澄

新潮社 2010-07
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 本屋大賞2位になったときあたりか、テレビでも紹介されるようになり、さらに最近映画化もされ、気になっていた本をようやく読んだ。

 五編の短編集。でも登場人物は共通で、一つの事柄の前後について、五人の視点で描かれている感じ。

 一番初めの「ミクマリ」という作品が、作者のデビュー作。
「女による女のためのR-18文学賞」受賞作品ということで、最初の作品は官能小説っぽい。電車の中で読むのがためらわれるような、直接的な表現も多く、苦手だと思う人は苦手かも。
 1作目から、作者の表現力や、設定、人物の配置などにはうまさを感じたものの、正直読み始めは「へぇ......」という感じだった。

 ただ、読み進めるにつれ、物語はどんどん立体的になっていく。第1話では20代後半の女性と男子高校生の情事が、高校生の視点で書かれているのだけれど、第2話は20代後半の女性のほうの視点で描かれる。それを読むことで、「あぁ、この人はこういう人生を歩んできて、こういう環境に置かれていて......だからか......」と、少し分かったような気持ちになる。

 3話からは、第1話、第2話の物語が終了したあとのお話。
 第3話の視点人物は、第1話の高校生に思いを寄せる女子高生。第4話の視点人物は、第1話の高校生の友人。第5話は、第1話の高校生の母親、なのだけれど、第1話の二人の話と関係もありつつ、でもそれぞれの人物の世界の話になっている。

 第4話、第5話あたりになると、性的な描写はほとんどなく、「性」よりもむしろ「生」についての物語になっていく。

 第4話では、貧しさの象徴と思われている"団地"で、祖母とふたりで暮らす高校生が、"団地から抜け出す"決意をする話。第5話は、助産院を営む"母"が、自らの子育てに迷いつつも、力強く子供を取り上げて生きていく話。

 私は4話あたりで、かなりこの作者のファンになった。
 正直第1話、第2話あたりまでは、「確かにうまいけれど、次の作品は読まないかも」と思っていたけれど、最後まで読んだときには、ほかの本も読みたいという気持ちになってきた。

 本来は官能小説に分類されるであろう作品から始まっているからだろうか、ほかの普通のエンターテイメント作品とは違った切り口の、非常にオリジナリティあふれる作品になっているように思えた。

 

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