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2013年7月17日

道尾秀介「カラスの親指」

カラスの親指 by rule of CROW's thumb (講談社文庫)カラスの親指 by rule of CROW's thumb (講談社文庫)
道尾 秀介

講談社 2011-07-15
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★"詐欺師"に読者も、まんまと騙される★

 昨年秋に映画化された道尾さんの作品。
 道尾さんの作品には素敵なものが多いが、意外にもこれが「初の映画化作品」だったらしい。
 確かに映画にすると映えそうなシーンや、起伏にとんだストーリー、個性的なキャラクターなどが、他の道尾作品に比べて多いような気がする。

 主人公は詐欺師。その詐欺師が泥棒と知り合って同居し始め、そこにスリを生業とする少女、少女の姉とその恋人までが加わり、5人での共同生活になっていく。
 その5人が、壮大な"復讐"計画を立て、実行していく、というのが、ざっくりとした内容。
 その"復讐"に向かって動いていく一本のストーリーの線も、もちろん見ものだけれど、5人のちょっと空とぼけた会話とか、ちょっと奇妙な共同生活の様子とか、癖はあるけれど"なんかいい人だな"と思える登場人物の人柄とか......。この小説には魅力がたくさんある。

 特に心に残ったのは、こんなトリビア的な情報。
 お父さん指(親指)は、他の4本の指としっかりくっつくのに、お母さん指(人差し指)は、赤ちゃん指(小指)とだけうまくくっつかない。
 でも、お父さん指とお母さん指をくっつけたまま、赤ちゃん指にくっつけると、ぴったりくっつく。

 おお、本当だ!!
 ......思わず、やってしまった。
 このちょっとしたトリビアは、タイトルの「親指」にも通じ、最後まで意味がある。
 さすが道尾さん!


 始めは、その「詐欺師」とか「泥棒」という設定とか、ちょっと現実離れしたユーモラスな会話などが、"あれ? 今、伊坂幸太郎読んでたっけ?"という錯覚も起こさせたけれど、ラストの締め方にやっぱり違いが出ている気がした(どっちがいいとか悪いではなくて)。
 伊坂さんの作品は、ちょっと現実離れした感覚のまま、初めから最後まで突っ走り、「犯罪行為」に対する罪悪感のようなものは、いつもまったく感じさせない。それに比べて、この作品のラストは、現実的なところに、しっかり落とす感じだった。
 人の心の機微とか、人間の深みみたいなもののは、そのほうがよく伝わる気がした。

 この小説の一番の売りは、最後の最後で起こる大どんでん返し(映画のキャッチコピーでもそれを謳っていたと思う)。
 詐欺の話だけに、読者まで騙す、という、にくい演出。

 ただ個人的には、最後の最後のどんでん返しがなくても、その前にある、どんでん返しが結構ツボにはまり、そこで終わっても、楽しめたかな、などと思った。

 どんな「どんでん返し」なのかは、もちろん、読んでのお楽しみ♪

2013年2月17日

道尾秀介「光」

光
道尾秀介

光文社 2012-06-08
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 道尾さんの小説をまた手に取ってみた。今度は、小学校高学年か中学生の夏休みの宿題の「読書リスト」に入ってしまいそうな、小学生を主人公にした、非常に健全で、明るい作品だった(あ、でも小学生には難しすぎると思うけど)。
 すごい、こんな作品も書けるんだ~、と思う。幅、広すぎ。作者を隠して本を渡されたら、当てられないな、きっと。

 今回は、小学校4年生4人組(+そのなかの一人の姉と、たまに小学校3年生の子が加わる)を主人公にした7つの短編集。
 それぞれの章でちょっとした事件が起きて、解決するという構成なのだけれど、すごく大きな事件が起こるわけではなく(最後だけちょっと大きいけど)、基本、日常のほのぼのした出来事が描かれている。
 ただそのなかにも、ちょっとしたミスリードが含まれていたり、さらりと書かれているようで構成は凝っていて、そこはさすが道尾さん、という気がする。

 小学生4人組は、分かりやすく性格が割り当てられている。そういう意味では、自分が小学生のころによく読んでいた子供向けの探偵系の本を思い出す。ただ、やはり心理描写は深みがあり、それぞれの心の動きや痛みが伝わってくる。
 子供のころにはすぐ身近にあったはずの自然とか、秘密基地的な場所とか......なんか懐かしい。ときどきちょっと深刻にもなるけれど、みんな純粋で、友情でつながれていて、安心して読めるストーリーだった。

「向日葵が咲かない夏」にもファンは多いみたいだけれど、あの結構難解な世界からは、ずいぶん"一般の読者"のところに目線を下げてきているな、というのが一番の感想。
 きっとデビューして五年以上経ち、読者の存在をきっと身近に感じるようになってきたのだろうな、などと勝手に想像していたが、twitterを見たら、ファンからの質問にはすべて事細かに答えていて、「おぉ、なるほど」と思った。その会話を傍で見ているだけでも、気取らなくて、なんか素敵な人だな、と感じた。

 きっと道尾さんはこれからも、さらに表現力や構成力など腕は磨きつつ、でも目線は"読者"にしっかり合わせて、素敵な作品をたくさん書いてくれるのだろうな、と感じられた本でした。しばらくいろいろな作品を読んでいきたい。

2013年2月 3日

道尾秀介「光媒の花」

光媒の花光媒の花
道尾 秀介

集英社 2010-03-26
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 道尾さんの作品は、なぜか今まで敬遠してしまっていたところがあったのだけれど(難解な小説というイメージが強く)、最近の書評などを見ると、「書くごとに成長し、変化している作家」らしく、この「光媒の花」は、もはやデビュー当時の「ミステリー」ではなく、かなり純文学的な要素の強い、非常に良質な文学作品だった。


 旅に出る前の羽田空港の、時間つぶしで入った本屋で、「山本周五郎賞受賞作」の帯に惹かれて手に取って、読んでみたら、二、三ページで世界に引き込まれてしまった。そして、荷物が増えるのの思わず買ってしまった......といういきさつの本。
 何だろう、この数ページで世界を作り出せる力......。


 多分、道尾さんはミステリーでデビューしている人だから、ストーリーの構築力もある人なのだと思うけれど、この短編集で一番感じたのは、文章表現力のほうかな。
 表現力をしっかり持っている人は、どんなに淡々としたシーンでも、読者をひきつけられるように書けるのだろうと思う。
 以前私は、「どんな小説を書いているの?」と聞かれると、「別に、何も起こらない、日常の日々」などと答え、「つまらなそうだね」という返事をしばしばもらっていたが(汗)、私の中には、「何も起こらない淡々とした日常」を魅力的に描ける文章力こそ作家にとって重要な力だ、という想いはずっとある。
 そういう意味で、道尾さんのこの文章力、表現力は、自分が憧れ続けているものの気がする。


 あ、ただ、誤解されないように言っておくと、この短編集は、それぞれストーリーや設定なども非常に綿密に練られ、その部分でも完成している。
 6つの短編は、登場人物が弱く重なり合いながら、それぞれの世界を創り出している。それぞれに完結しているけれど、どれも飛び出たり、ひっこんだりせず、同じようにしっかりとした安定した質で作られていて、6つ読み終わると、それで1つの作品が完成した、ようにも感じられる。


 悲しかったり、残酷だったりする部分もあるけれど、それでも人の心の温かさは随所に見られる。
 個人的には、宮本輝の初期の作品、「泥の河」とか「蛍川」などを思い出した。宮本輝は「蛍川」で芥川賞を獲っているけれど、「泥の河」で太宰治賞を受賞してデビューする前に、「蛍川」をほかの賞に送って落選しているらしい。そのときの落選理由が「上手すぎる」だったとか。多分、もっと新人らしい、「粗削りな才能」を求めていたんだけれど、完成されすぎているということだったのだろう。
 道尾さんの「光媒の花」にも、「上手すぎる」ほどの完成度を感じた。


 正直、この本の後に「ひまわりの咲かない夏」を読んで、「???」だったので、私にはちょっと初期の道尾作品は合わないようだけれど、「光媒の花」以降の作品はまた読んでみたいと思う。
 もしかしたら、「好きな作家は?」と言われたとき、今後、名を上げることになるかもしれないな、と思うくらい、良い出会いになった本でした。

 

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