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2013年6月 9日

池井戸潤「ロスジェネの逆襲」

ロスジェネの逆襲ロスジェネの逆襲
池井戸 潤

ダイヤモンド社 2012-06-29
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★社内の派閥争いだって、立派なエンターテイメント?!★

「下町ロケット」で直木賞を獲った池井戸さんの本を久しぶりに読んだ。
 池井戸さんは、今は独立した立場の「コンサルタント」らしいけれど、以前は大手の銀行に勤めていた経歴を持つ。
 そのため、どの本を読んでも(全部を読んでいるわけでないけれど)、かなり重要なポジションで"銀行"が出てくる。

 よく知らずに読み始めたのだけれど、この本は、半沢直樹という銀行員が主役のシリーズ第3弾だったらしい。でも、この本から読んでも、充分楽しめた。
 半沢さんはバブル期に大手の銀行(多分、東京三菱(笑))に入社したけれど、今は子会社の証券会社に出向させられているという設定。
 この本は、その証券会社と、親会社である銀行の"戦い"を描いたエンターテイメント。

 話は、ITで成功した電脳という会社が、同じくIT系の"東京スパイラル"を買収しようと考えるところから始まる。
 電脳は初め、そのアドバイザーに半沢さんのいる証券会社を選ぶが、その案件を銀行に"横取り"されてしまう。そこから、銀行と証券会社、親会社と子会社の戦いが始まる。
 ただ2つの会社の戦いが単純なようでいて、単純でないのは、"子会社側"には、"親会社に戻ることを切に願っている出向者"が多くいることだ。

 企業買収の流れや、銀行の内部情報など、相当詳しく書かれていて、さすがだなと思う。銀行のことはよく知らないけれど、きっとこういうものなのだろうな、と納得させられるリアリティが随所に散りばめられている。
 ただ、大きな組織のひずみとか、腹黒い人間関係とか、汚い出世欲とか、人間の嫌な部分も多く描かれているのだけれど、いい意味でそのあたりは表面的な描き方の気がする。
 時代劇で「おぬしも悪よのぉ。ふぉふぉふぉ」みたいな、ある意味分かりやすくて、安心できる"悪"というか。
 池井戸さんの小説は、決して"文学"っぽくはなく、徹底した"エンターテイメント"。だから微妙に揺れ動く人の心の動きとか、美しい情景描写などは、ない。台詞とト書きで成立させられそうな世界でもある。
 でも、文章は上手いのだろうな。読んでいて、非常にリズムを感じるというか、臨場感が伝わってくる。
 シーンの多くは会議室や応接室や飲み屋なのだけれど、それでもアクションシーンの多い映画を見ているようなワクワクする気持ちとか爽快感を感じていたりする。不思議だ。

 私は正直、"文学"ではない、ただの"エンターテイメント"の小説は基本的に嫌いなのだけれど、10人くらいは例外の作家がいる。
 池井戸さんもそのなかに入るな。

 私が池井戸さんの作品で一番好きなのは「空飛ぶタイヤ」。三菱自動車のトラックのタイヤが外れて死亡事故が起きたという現実の事件を髣髴とさせる話(ノンフィクションっぽいけれど、この本はあくまで上記事件とは関係ない、というスタンスらしい)。
 世の中の矛盾と向き合いながらも、こちらも最後には善が勝つ、安心して読めるエンターテイメント!

 ただ、それにしても、大きな組織で働く人々の人間関係って大変なんだなぁ。
 池井戸さんの作品を読むと、身の回りの働く男たちにねぎらいの言葉を掛けたくなったりもします(笑)

2011年10月19日

池井戸潤「下町ロケット」

下町ロケット下町ロケット
池井戸 潤

小学館 2010-11-24
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やっぱりいいなぁ。
直木賞受賞、納得。
ザ・エンターテイメント!

「空飛ぶタイヤ」の方が、より社会性が強く、文学としては上の気もするけれど、「空飛ぶタイヤ」があくまで、マイナスがゼロに戻るまでの話だったのに対し、「下町ロケット」はマイナスをゼロに戻して、さらにプラスにする、というところで、さらに感動がある。

 作者の経歴を知っているためか、やはり「なるほど、コンサルタント!」と思う。
「空飛ぶタイヤ」のときも、大企業による中小企業のいじめみたいなものがテーマだったけれど、やはり色々な会社の実態を見ていると、社会の様々な矛盾を感じるのだろうな。
 ただそれを、ただの問題提起とか、嘆きにするのではなく、「それでも闘い、勝利を掴む物語」に作り上げていることで、多くの「社会の矛盾を感じている大人達」を元気づけられるのだろう。
 Viva 兼業作家!(笑)

2011年9月19日

池井戸 潤 「空飛ぶタイヤ」

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)
池井戸 潤

講談社 2009-09-15
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「下町ロケット」で直木賞を取った池井戸さんですが、4年くらい前、「空飛ぶタイヤ」で直木賞の候補になりながらも、選外になっています。
でも、この「空飛ぶタイヤ」、非常に良かった!
きっちり作られているエンターテイメント小説でした。

ストーリーは簡単に言うと、中小企業(というより零細企業)の運送会社のトラックのタイヤが運行中に外れ、女性を死亡させる。
トラックはホープ自動車という大企業のもので、ホープ自動車の検査結果によると、「整備不良」が原因ということ。
責任は運送会社にあるということになり、運送会社の社長は、被害者から訴えられたり、大きな取引先を失ったり、ひどい目に遭う。
でも、社長は、自分の会社の「整備不良」だという結果を信じず、大手企業であるホープ自動車に真っ向から勝負を挑んでいく。
という話。

タイヤが外れて死亡事故が起こり、それが結局、自動車会社の問題だった、というのはまだ記憶に残っている実際の事件にもあった。
その自動車会社というのは、三菱自動車だったということも、多くの人が覚えていることだろうし、この作品にも、ホープ自動車のグループ会社の「東京ホープ銀行」なども登場し、明らかに「東京三菱銀行」なのではないかと思い、また、池井戸さんは、以前三菱銀行に勤めていた......という経歴もある。
が、この作品はあくまでフィクションらしい。

それでも、一人一人の人間の、組織で生き残るための狡猾な計算高さが、非常にリアルで、次第に追いつめられていく運送会社の社長を応援せずにはいられない気分になる。
よくエンターテイメントの書き方として、「主人公を徹底的に、これでもか、これでもかと痛めつけ、最後の救いを与える」という手法が語られるけれど、その基本に非常に忠実な、社長が徹底的にいじめられる話なのだけれど、その分、思いがけないところから救いの手をさしのべてくれる人の存在に、心から温かい気持ちになったり、ちょっとうるうるしてしまったり......非常に上手い、と感じさせる作品だった。

良質なエンターテイメント小説を求めている人にはお勧め。
人も組織も、非常にリアルに、立体的に描かれている。
企業小説を書くためには、やはり大企業に勤めた経験というのは大きいなぁ。

と、ちょっと自分に足りない部分を感じてしまったりもしたけれど、文庫本の最後の解説によると、池井戸さんも江戸川乱歩賞を獲る前年には最終選考落ちをしていて、それから翌年に受賞するまでに「化けた」らしいし、さらにそれから、試行錯誤を経て、自分の得意とするスタイルを確立していった、とある。
初めからこれだけ完成されたものではなかったのだな、と思うことで、ちょっと安心(笑)

文庫になるまで待とうかと思ったが、「下町ロケット」も読みたくなってきた。

 

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