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2009年12月19日

吉田修一「悪人」


悪人(上) (朝日文庫)悪人(上) (朝日文庫)

朝日新聞出版 2009-11-06
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久しぶりに吉田修一を読んだ。

吉田さんは、上手く純文学とエンターテイメントを融合させている作家のひとりだと思う。

正直、芥川賞受賞作の「パーク・ライフ」を読んだときは、もう二度とこの人の本は読まないだろうな、と思ったけれど、他の本は、結構、エンターテイメントの要素もあり、おもしろく読める。特に「パレード」は、傑作。

この「悪人」は、来年映画化されるようで、文庫本が平積みされていたので、気になって買ってしまった。
大佛次郎賞、毎日出版文化賞をW受賞しているらしい。

これも非常に、純文学的にも読めるし、ミステリーにも読める作品だった。
始めに、女性が殺される。そして、犯人は誰か、ということが、色々な人や、色々な時間軸からの視点で綴られる文章によって、少しずつ分かってくる。
前半は、非常にミステリーの要素が強い。だから、先が気になって、どんどん読んでいける。
ただ、後半は、犯人の「逃避行」の物語になる。

吉田さんはやはりもともと純文学の作家だけあって、非常に描写力がある。町の様子を描くのにも、普通の作家とは違う感性を使っているように思える。だから、福岡・佐賀・長崎という場所と、それをつなぐ道とトンネルが、非常に鮮明に(行ったこともないのに)目の前に浮かぶ。

そういう描写力によって、物語は決してありきたりの陳腐な作品にはならないけれど、でも、正直私は、前半と後半の世界の変化にちょっとついていけず、バランスの悪さを感じてしまった。

買った文庫本には「映画化」という帯が巻かれ、「あの人に出会うまで、こんなに誰かを愛する力が自分にあるなんて思わなかった」という言葉が書かれている。
確かに後半のテーマはこういうことなのだろうけれど、はじめから本当にそれがテーマだったのだろうか、という疑問が残るというか......。
でもこれは、あくまで「映画」のテーマであって、小説のテーマではないということでいいのかな。
多分、吉田さんが一番描きたかったのは、人の多面性じゃないかな、という気がする。
相手によって、人はどんな人間にもなる、と。

アマゾンなどでは評価が高いようなので、私に読みきれていない部分があったのかもしれない。

2006年5月15日

吉田修一「日曜日たち」


日曜日たち (講談社文庫)日曜日たち (講談社文庫)

講談社 2006-03-15
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久しぶりに本を一冊読み終わった。
この頃、本当、読めていないなぁ。
でも、一日30分でも小説を読む時間があると、結構幸せな気持ちになれる。
特に久しぶりに好きな作家の本を読むと、やっぱり好きだなぁという気持ちが溢れてくる。その作家が好きというのもあるし、小説が好きというのもある。
そして自分が気持ちの上で、小説の世界から遠ざかってしまったわけではないのだと、ちょっとほっとする。

この小説も吉田修一らしい本だった。
5つの短編からなっているのだけれど、やはり、ちょっとダメな男の子を主人公にした作品がいい味を出している。
一番好きなのは、一番初めの「日曜日のエレベーター」。この男のだめっぷりがいい。
そして、この台詞。
「誰かを愛するということが、だんだんと誰かを好きになることではなくて、だんだんと誰かを嫌いになれなくなるということなのだと知ったのだ」
すごくいいなぁ、と思った。
でもどうして嫌いになれなかったのに、別れてしまったのだろう。それがダメ男がダメ男たるゆえんなのかもしれないけれど、「あ~、どうして!」という気持ちは最後まで残り、でもそれは不満というより、余韻として良い感じに残る作品だった。
あと「日曜日の運勢」も良かったかな。同じような主人公が、でもちょっと違った行動を取る、お話し。


それから前編に「脇役」として、二人の子どもが出てくる。それがつながりがない5つの話を、串でさしたように貫いている。こういうのも吉田修一らしくて好き。
しかも「脇役」ではあるのだけれど、効果的に主人公の気持ちを変えるのに役立っている。

文庫本になっている本なので、電車の中で読む本のないときなど、ちょっと買って読んでみてもらいたいな、と思います。

 

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