凪~小説・写真サイト~                    
  作品   レビュー   写真   日記   プロフィール
                     


2007年8月 2日

市川 拓司「そのときは彼によろしく」

大分前に読み始めたのですが、バタバタしていてようやく読み終わりました。

そのときは彼によろしく (小学館文庫)そのときは彼によろしく (小学館文庫)

小学館 2007-04-06
売り上げランキング : 100385
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

これは最近、映画化された作品ですね。
市川さんの作品は「いま会いに行きます」が一番有名だと思いますが、どの作品にも、柔らかい雰囲気があって好きですね。「恋愛写真」も良かったです(これも同名の映画がありますが、市川さんの作品が映画化されたのではなく、映画を見た市川さんが刺激を受けて小説を書いた、ということのようです。中身はもう、まったく別物。私は絶対小説の方がいいと思います!)
登場人物(特に主人公)はいつも、ちょっとさえない、不器用な男の人で、恋愛経験もあまりないのだけれど、その分、愛した一人の人をぼくとつに想い続ける。その純真さが、今の小説・映画のなかではすごい新鮮に思えたりする。
みんな、不器用だけれど、誠実にまっすぐ生きていて、ほっとする世界。
大きな成功をつかむこととか、要領よく生きることとか、そういうのもいいけれど、「幸せ」ってもっと、身近に、当たり前のもののような顔をしてあるものなんじゃないの?みたいな問いかけを感じる。
あと、始まりは普通の日常をつづったストーリーのように見えるけれど、いつも少しずつ「異世界」が入り込んできて、最後の方はファンタジーっぽくなるのも市川さんの作品の特徴かも。
でも、出てくる人物がみんな、ちょっと空想好きな雰囲気の、内的世界を持っているような人たちだというのと、市川さんの文体が不思議な印象を与える比喩などを多用した、ユーモアのある、いい意味で地に足が着いていないようなふんわりしたものなので、違和感なくその世界を受け入れることができる。

まぁ、好き嫌いは分かれる作家かもしれないけれど、私は好きだな。
なんとなく「成功するぞ!」「セレブになるぞ!」みたいな世界に疲れたら、手に取ってみてください(笑)

2006年1月 8日

市川拓司 「世界中が雨だったら」


世界中が雨だったら (新潮文庫)世界中が雨だったら (新潮文庫)

新潮社 2007-11
売り上げランキング : 202894
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「恋愛写真」「いま会いにいきます」と二冊読んで、なんて才能のある人なんだろうと思った。なんといっても文体が独特ですばらしい。ちょっとふざけているようでいて温かみがあって、世界に引き込まれてしまう。そして中身がまた、文体にあっている。不器用だけれど、一生懸命な男と女の精一杯の恋愛。あぁ、恋愛ってドキドキしたりおしゃれな気持ちになったりするものじゃなくて、もっとほっとしたり、心のそこから満たされたり、そんなものなんだなって、市川さんの本を読むと思うことができる(いや、実際、そうなんだけれど、得てして本や映画の中の恋愛はそういうものじゃないことが多くて、人はもっと刺激のある恋愛を意味もなく求める傾向にあったりする)。

 ただ、以前読んだ二作に比べると今回の本は、あれ......という感じだった。長編かと思っていたら、中身は短編が三作。一作目は市川さんらしい文体や表現があって、やっぱりうまいなぁと感じさせるのだけれど、他の二作は結構誰にでも書けそうな文章だったし、内容が暗くて結構救いがない。エンターテイメントに必ずしも殺人は必要ないだろうって言いたくなるような感じだった。
 結構、売れっ子になると、どんどん書いてくれと言われて、内容が浅くなって、つまらなくなってしまう作家が多いような気がするのだけれど、市川さんもそうなのかなぁ......と、ちょっと残念に感じた。
 ただどうやら、二作目と三作目は、「いま、会いにいきます」のずっと前に書いたものらしく、それは、ほっとする。あぁ、なんだ、下手になってしまったんじゃなくて、まだ上手くなっていなかった、というだけなのだ、と。
 でもそういう昔の作品まで出してきて、とにかく話題になっているうちに売ろう!という感じの本の出し方は感心できないけれどね......。

 ということで、市川さんの本を読んだことのない人には、他の本から読んでください!といいたくなるような内容でしたが、一作目だけは、結構良かった。市川さんは、特に比喩が独特で上手い!
 たとえば、ただ会話がぎこちなかったというだけのシーンを、「荷箱をツメ草で満たすように、ぼくはただ沈黙を埋めるためだけに、ひたすら言葉を吐き続けた」と描写したり、自分のしていることが自分でよく分からなくなってきたということを説明するために、「なんだか自分の人生そのものを不安定な足場の上でジャグリングしているような感覚があった」と言う。
 そのほかにも、よくそんなに関係なさそうなものを上手く関連付けて、あぁ、なんとなく分かるという描写にしてしまう。
 キスとかHのときの描写もいい。結構具体的にしていることを想像できるのだけれど、市川さんの文章で書かれると、それは全然いやらしいことには感じられずに、夢のある優しい行為のように受け止められる。
 市川さんは以前インタビューか何かで、新聞で本の広告を見て買うことがある、特に専門書をよく買う。と言っていたけれど、結構知識も幅広くて、それも市川さんの世界を支えているのかもしれない。
 今回の本は正直ちょっと......でしたが、次の作品もまた期待したいな、と思っています。というか、以前の本も読んでいきたいな。
 結構下手にベストセラーになると、そんなのを手に取るのはミーハーなんじゃという感じがして、普段から本を読む人からは敬遠されることも多い気がするけれど、一冊も読んだことがないのなら、ぜひ一度ぐらい読んでみてください! 好き嫌いはあるかもしれないけれど、結構はまるひとははまると思うので。

2005年9月18日

市川拓司「いま、会いにゆきます」


いま、会いにゆきますいま、会いにゆきます

小学館 2003-03
売り上げランキング : 84645
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

今更なんだけど、でも、すごく良かった!
 やはり市川さんは才能にあふれた人だなぁ。
 この本って、同時期にブレイクしたというだけで、「世界の中心で愛をさけぶ」と並び評されてしまうことが多い気がするけれど、ぜっったい違う。
 市川さんの方が何十倍も上の気がするなぁ。

 私は市川さんの本は「恋愛写真」に続いてまだ二作目だけれど、確かなワールドを持っていて、とても惹かれる。
 それはテーマやストーリー、発想だけではなくて、文体とか細かなジョークとか、細部に渡る。なにをとっても、市川ワールドとしか言えない。同じストーリーやテーマで作品を書いても、普通の人には絶対ここまで書きこなせない。そういう、ものすごい、羨ましいほどの力を感じる。


 この小説はまぁちまたでもよく言われていたように「愛」の話。ただもう、それに終始する。でも(また比べちゃうけど)、「セカチュウ」の「愛」とは次元が違う。「セカチュウ」の場合は、まぁこういう状況なら誰でもこれくらい激しく恋する気持ちになるよなぁ~って納得できちゃう感じなのだけれど、「いま、会い」の方は、ある意味で「すごいなぁ、こういうのこそが本当の愛っていうもんなんだなぁ~」と感心させられる感じ。
 こういうかなり頼りなくて、気の利いたところにも旅行にも一生つれていってくれないような男の人を愛しきり、その人を幸せにするために自分には何ができるのかを精一杯考える......澪さんはすごいな。でも、その愛をしっかりと受け止め、同じように彼女を幸せにできているか常に不安を感じながらも真っ直ぐで一生懸命な「たっくん」も素敵だ。
 別になんの説教臭いところもないのだけれど、自分自身のことを振り返って深く反省させられるような、本当に純な美しさに満ちたお話しでした。
 市川さん自身、妊娠して仕事を辞めて暇になった奥さん(小説などあまり読まない人らしい)にも楽しんで読めるようなものを書きたいと思って作品を書き始めたと、インタビューで言っていた。
 きっと本当にこの小説の登場人物のような愛に満ちた人なのかもしれないなぁ、なんて温かい思いになる。
 う~ん......私ももっと愛に満ちた人間になりたいですっ。

 

Top ・ Works ・ Photos ・ Diary ・ Profile