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2013年8月18日

伊坂幸太郎「ガソリン生活」

ガソリン生活ガソリン生活
伊坂 幸太郎

朝日新聞出版 2013-03-07
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★伊坂さんの思考、柔軟すぎ!!★

 最近ちょっと伊坂さんの新作を追えていなかったのだけれど、「『ガソリン生活』はおもしろいよ」という話を聞いていたので、久しぶりに手に取る。

「燃料を燃やし、ピストンを上下させ、車輪を回転させて走行する、あの躍動感こそが生きている実感であるから、路上を走るのはもちろん痛快な時間だ。
 その一方で、エンジンが停止し、電子機器が止まった駐車状態も嫌いではない。
 隣にほかの車がいれば会話を交わし、社会事情について情報交換ができるし、もし自分一人きりであったとしても、静かに回りを眺め、思いを巡らせることができる」

『ガソリン生活』の冒頭は、こう始まる。

 一文目から「銀行強盗に遭うなんて思いもしなかった」とか「モデルガンを握って、書店を見張っていた」とか、そんな「うん?!」という出だしから始まる、伊坂さんの他の作品と比べて、ずいぶん平和で、普通っぽい書き出しだなぁ、と思う。

 が、その思いは、次の文章で、「???」に変わる。

「次にいつエンジンをかけてもらえるのか、その時のことを夢想し、」

 エンジンをかけてもらえる?
 も、もしや......この本の主人公って、車なのか???

 そして二行後、「人や動物と、僕たち自動車の共通点や差異について、思いを巡らせる」。
 おぉ、やっぱり、車なんだぁ......。


 ということで、この小説の主人公は、望月家という大学生の男の子、高校生の女の子、小学生の男の子とその母親の四人家族の所有する車だった。
 緑のデミオ。

 この小説の設定では、車は車同士、そして電車とは話せるし、自分のなかや周りで交わされている人間の会話は理解できるが、人間と直接話すことはできない。
 そんな設定で、400ページを超える小説がどうして書けるんだ、と思うけれど、まるで違和感なく、読めてしまう。

 緑デミオにも、隣人の車、古いカローラの「ザッパ」(持ち主の校長先生が、フランク・ザッパの大ファンで、ザッパの自伝に書かれている名言が口癖のため、車にもそれがうつっている)にも、次第に愛着が湧いてくる。

 そして本当に街中の車にも、感情と思考があるのではないかと思えてくる(笑)
 特に、ほとんど地下の駐車場に眠らされてばかりで、ほとんど洗ってももらえない、うちの車はかわいそうだ......とも......。反省。

 また、デミオや周りの車が「人間というのは......」と哲学的に語る部分も結構あるのだけれど、人間に語られたら鬱陶しく感じられそうなことでも、なぜか車が話していると、変に受け入れられたりして。
 それもおもしろい。


 全体的なストーリーは、伊坂さんらしい、色々な伏線とその綺麗な回収によるミステリーになっている。
 緑のデミオという、本当に偏った一つの視点だけで、よくここまで多面的にストーリーが語れるな、と思えるほど、視点が限定されている窮屈さを感じさせず、流れをしっかり読ませる作品だった。

 うーん、やっぱり伊坂さん、すごい!
 その一言に尽きる作品だった。

 色々事件は起こるけれど、基本的にはハートウォーミングな内容なので、心が疲れているときなどに、ちょっとした気分転換としてもいいかもしれない。
 お薦め♪

2010年3月 8日

伊坂幸太郎「あるキング」


あるキングあるキング

徳間書店 2009-08-26
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1年位前に出た伊坂さんの本を読みました。
順番としては、多分「ゴールデンスランバー」や「モダンタイムズ」の次あたりに書かれたものでしょうか。

一言でいうと、
「やっぱり、2作、力作を書いたら、エネルギーの充電期間が必要ですよね」
というような作品でした。

伊坂さんの良さがどこにもなかった。

ストーリーは、非常に弱いプロ野球チームのファンである両親が、息子を野球選手にして、そのチームの選手にしようとする話......かな。
ただ、その「息子」が生まれつき、非凡な才能に恵まれているので、プロになるのも、活躍するのも当たり前すぎて、うむ......って感じ。
才能がある分、環境には恵まれていないという設定なのだろうけれど、「困難を克服して成功する」という青春もののよさもなく、純文学的なテーマの深さもなく......なんだったんだろう??? と......。

その話に「マクベス」を被せようとする試みは、おもしろいと思うけれど、「マクベス」はあまりに有名なので、逆にちょっとひいてしまった。
でも活字離れの叫ばれる今、マイナーな作品をオマージュしても、誰も気づかないだろうし、文学を成立させるのは難しくなっているのかもしれない。

 

プロ、特に売れている専業作家の場合、どんなコンディネーションでも、書かないといけないんだろうな、と思うので、別に作品にむらがあってもいいとは思うけれど、伊坂さん自身が、こういう作品が「いい」と思っているなら、「伊坂さんの本は全部読むぞ」という想いは続かないかもしれない。

「チルドレン」「重力ピエロ」「アヒルと鴨のコインロッカー」「ラッシュライフ」「オーデュボンの祈り」のような作品がまた読みたい。
というのが、ファンの切実な気持ちです。

2010年2月 7日

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」


ゴールデンスランバーゴールデンスランバー

新潮社 2007-11-29
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本屋大賞受賞作「ゴールデンスランバー」をようやく読んだ。
こういう重たい単行本はなかなか持ち歩く気にならないので、家でちょっとずつ読むことになり、その結果、なかなか読み終わらないのでだけれど、非常に伊坂さんらしい、楽しい本だった。

ストーリーは、「首相暗殺犯に気づいたら仕立て上げられ、必死に逃げる」と、簡単に説明するとそれだけだけれど、「魔王」などから続く、政治的な力に対する想いがテーマになっている。
ただ、真正面からそれを受け止めて書くと非常に暗く重い作品になってしまいそうだけれど、伊坂さんの作品ではそうはならない。
どんな危機的な状況であろうと、冗談を言ったり、思わず笑ったりする余裕が伊坂さんの作品の登場人物には常にある。それがいいのだろうな。

逃げるさなかに起こる一つ一つの出来事が、すべて「ちょっとありえない」感じなのが、「ただ逃げるだけの作品を決し飽きない起伏のある作品に仕上げている。
伊坂さんの作品の魅力は、ストーリーよりも、キャラクターと一つ一つの小さな設定を考える発想力なんだな、ということを改めて感じた作品だった。

伊坂さんの小説は、半分くらいが既に映画化されているけれど、この『ゴールデンスランバー』も近々映画化されるらしい。テレビのCMも良く見るから、配給会社もかなり力を入れているな。

伊坂さんの作品を原作とした映画に堺さんが出るのは、『ラッシュライフ』につぎ、2回目。
堺さんのちょっと飄々とした雰囲気が、確かに伊坂さんのワールドにマッチしそうな気がする。

2009年1月 4日

伊坂幸太郎「モダンタイムス」

伊坂さんのモダンタイムスを読みました。

モダンタイムス (Morning NOVELS)モダンタイムス (Morning NOVELS)
伊坂 幸太郎

講談社 2008-10-15
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一番最近読んだのが「終末のフール」、その前が「砂漠」「魔王」「死神の精度」という順だったと思うのだけれど、このあたりの4作は、私の中では「何かが違う......」という感じで、物足りなさを感じていたのだけれど、これは、「これぞ伊坂さん!!」と嬉しくなるような作品だった。

漫画週刊誌に1年間連載したものをまとめた、とあとがきを読んで知ったのだけれど、これだけのものを毎週書いて出せるってすごいな~、と、ただただ感心。

この作品は「魔王」の続きで、超能力の話、政治の話、自分で思考しないと大変な力に取り込まれてしまうという話......などが引き続き語られる(読んでいない人には、意味がさっぱり分からない説明だと思いますが......すみません)。
やはり「魔王」を読んでから読むのがいいと思うけれど、読んでいなくても楽しめるとは思う。

「魔王」の続編ということで、設定は未来。
システムエンジニアだった伊坂さんが、たぶん初めて書いた、SE小説(?)。
システムがさらに発展し、インターネットの世界も進化する......するとどうなるか、という、ちょっとSFがかってもいるミステリー。
展開が読めず、イベントは多発し、飽きずに読める!

ただ「魔王」同様、また、政治などについて、かなり強い主張がある。
私はどうも作家が、メジャーになるとなぜか「主張」しはじめるのがあまり好きではない。
でも、この小説の中には「井坂好太郎」という小説家が登場して、さらにストレートに「主張」するのだけれど、それを読んでいたら、伊坂さんの抱える切実さ、みたいなものも分かって、逆に、全部受け入れられる気がした。
まぁ、マイナーな作家とかアマチュアが間違っても、あんな「語り」をしちゃいけないと思うけど(汗)

その井坂好太郎が小説というのは、音楽などと違って、集団を先導できるものではない、ただ一人ひとりの心に深くしみるものだ、というようなことを言う。
あぁ、なるほどなぁ、と思う。

伊坂さんは本当に頭が良くて、いろいろ考えている人なんだろうな、という気がする。
小説も、きっと、「使命感」を持って書いているんだろうな。
そう思ったら、これからも読み続けたいな、と純粋に思った。

この本は、純粋なエンターテイメントとしても楽しめるし、お勧め。
かなり長く、単行本は持ち歩くには重すぎるのが難点ですが、それ以外は、私にとってはパーフェクトでした!
メインのストーリーとは関係のないところでも、たっくさん伏線を貼っているというか、いろいろな工夫があって、本当、ただただ、すごいです。

2008年12月16日

伊坂幸太郎「終末のフール」


終末のフール終末のフール

集英社 2006-03
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伊坂さんの『終末のフール』は短編集。短編だけれど、完全に 途切れてはいず、つながってもいる。
伊坂さんらしい作品だな、と思った。

あと3年で惑星が衝突し、人類が滅びるという設定で繰り広げ られる作品集。
ひねくれている私としては、重いテーマには、これくらい 斜に構えた角度から作品を書いてもらいたい......かもしれない。

ただ、短編のなかの一つ「鉄鋼のウール」は、すごい、ばしばし 正面から伝わってきた。
その作品の舞台は、キックボクシングのジム。あと3年で世界が 終わるというとき、今更キックボクシングをしている人など いないのではないかと主人公は思うが、キックボクシングの王者 は、その日も練習をしている。

ネタバレになってしまうけれど、その王者が以前インタビューに こたえた記事が出てきた、というその記事の内容がいい。

まだ惑星が衝突するなどということが発覚する前、もしあと少し で地球が滅びてしまうということが分かったら、どうしますか という問いに、その人は、今と同じ得意技の練習をする、と答え る。そして、「あと何年も生きられないのにですか?」とあきれた ように言う相手に、こう言い返す。

「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生きかたなんですか?」

......すごく胸に響く言葉だった。

この章だけは、実際にモデルになった人がいて、その人との 出会いに刺激された書いたものらしいけれど、やっぱり、 他の章と温度が違った。

2008年5月 8日

伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」


オーデュボンの祈り (新潮文庫)オーデュボンの祈り (新潮文庫)

新潮社 2003-11
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伊坂さんの小説は、明るく見えながら、常に影がつきまとう感じです。でも、その、「世の中の悪い部分から目をそらしているわけではないのだけれど、救いのない物語でもない」という、絶妙なバランスがいいんだなぁ。
ただ、今回、伊坂さんの本は3冊目ですが、デビュー作がこんな作品だったのだということに、驚きました。
3作が3作とも似たような空気を醸しだしつつも、全く違う世界を描いていて、すごい。
特に「オーデュボンの祈り」は、ミステリー系の新人賞を獲った作品のようですが、ただ上手い、というだけではなく、こういう作品が、普通のミステリーのなかに、ぽっとあったら、それは気にならないわけがないでしょう、という感じでした。
私の個人的な感想では、「星の王子様」を思い出しました。
でも、これだけ突飛な設定、不思議で濃いキャラクターを登場させながら、物語を破綻させることなく、最後まで読者をひっぱっていってしまうその力、やっぱりすごいです。
絶対デビューして、伊坂さんに会う!!と、それが最近の目標です。

ここ数年は、ともかく、作家になりたい、と、作品を量産して、新人賞に一年に何作も送り込んでいましたが、伊坂さんの本と出会って、目標がちょっと変わりました。
今年一年は、丸一年かけて、伊坂さんに負けないレベルのすごい小説を1作書く!
あと、今年中に、いままで出ている伊坂さんの本は全部読む!

そうそう、伊坂さんの作品は、作品同士色々なリンクが貼られているのですが、「無重力ピエロ」というファンサイトで、それが一覧になっています。

http://www.mtnk.net/isakaworld.html


気をつけて読んでいるつもりでも、一回読んだだけでは全部は見つけられない感じです。
深いな~。
っていうか、本当に頭のいい人だなぁ、と、感心、というか、すごく羨ましい~!!

 

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