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2009年6月 7日

山田宗樹「直線の死角」「聖者は海に還る」

直線の死角 (角川文庫)直線の死角 (角川文庫)
山田 宗樹

角川書店 2003-05
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聖者は海に還る聖者は海に還る
山田 宗樹

幻冬舎 2005-03
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上記2冊を読みました。

「直線の死角」は、山田さんのデビュー作。
「保険金殺人」というと、非常にありきたりなテーマなのだけれど、ちょっとひねるだけで、新しい切り口になるのだと、学んだ気がする。

ただ、それ以外は、依頼を受けた弁護士が探偵のように事件の真相を探っていくという、類型化した物語。恋愛も絡んでくるけれど、山田さんは普通の"恋愛小説"を書く人じゃないのかもな......と。

正直、あんな完璧に思える作品を書く作家でも、デビュー作から完璧だったわけではないんだなぁ、と、ちょっと安心できた作品でした。

アマゾンでは平均★4つのようなので、こういう作品がいい、という人もいるんだとは思うけれど。


「聖者は海に還る」は、今まで読んだ山田さんの作品のなかではいちばん、「さらり」と読めた作品だった。ひっかかるところなく、先が気になって「一気に読んだ」感じ。

"人は人の心にどれだけ影響を与えられるのか、与えていいものなのか"というテーマにまっすぐ向きあって、書ききった作品だと思う。

一言でまとめると、
「スクールカウンセラーと、一見完璧に思えるカウンセリング手法についての話」

山田さんのどの作品も"先が気になる"エンターテイメントなのだけれど、この作品は特に、先へ先へ読者を促す力を持っている気がした。

ただ、以前、純文学系の作家の人に「一気に読めた、というのがみんな褒め言葉だと思っているようだけれど、それは違う」と言われたことも思い出した。
少し躓きながらも、作者の世界に向き合い、少しずつその世界に足を踏み入れていった作品のほうが、心に残るのかもしれない。

ラストがちょっと中途半端に思えたというのもあり、「黒い春」「天使の代理人」と比べると、「あともう一押し」欲しかった感じ。

ただ、そんなちょっとした物足りなさを感じたり、「よくあるテーマだよね」などと感じてしまうのは、自分自身が長く教育の現場にいて、「教育ってなんだろう」「人は人にどれだけ影響を与えていいのだろう」ということを、ずっと、考え続けてきたからかもしれない。

もしかすると「黒い春」など、私は、「ここまでフィクションにリアリティがあるなんてすごい」と、大絶賛してしまうのだけれど、製薬会社の人などには、「どこがいいの?」と、捉えられたりするのかもしれない。読者の経験によっても、評価って変わるのかもしれないな。

ということで、まだ読んでいない作品はだいぶ少なくなってしまったけれど、読み続けます!

2009年5月20日

山田 宗樹 『黒い春』

黒い春 (幻冬舎文庫)黒い春 (幻冬舎文庫)
山田 宗樹

幻冬舎 2005-10
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すっかり山田宗樹さんにはまっています。
読めば読むほど、すごいです。

この話は、健康だった人が、突然咳き込み、黒い粉を吐いて死ぬという病気が日本で発生し、その病気の原因と治療法を求め闘う男たちの話。

すっごく簡単に言うと、それがあらすじ。

でも、そこには、上記のあらすじから想像される「プロジェクトX」みたいな部分もあるのだけれど、それぞれの男たちの家族や大切な人との絆があり、生と死への思いがあり、こういう事態に陥ったときに弱い官僚や国の制度への批判があり、人間と病という古くから続けられてきた歴史あり、さらに歴史ミステリーもあり......と、一言では言い尽くせないテーマや内容が詰め込まれている。

ただそれが、「テーマを詰め込みすぎて、焦点がぼやけてしまった」というようには決してならず、すべてが地層のように積み重なって、一つの、非常に重たいリアリティのある世界を作り出している。

山田さんの作品を最近続けて読んでいて、小説というのは今まで、ある点から先にある点への一直線の動き(ストーリー)だと思っていたけれど、それだけじゃないな、と思った。
山田さんの作品は、ある点から始まり、そこから水紋のように輪になって水平方向に広がっていき、さらに水中深くへも広がっていくものである気がする。
どこかに行き着くわけではない。
でも、その広がりを見つめることで、その一つの出来事やテーマについて、自分ならどう考えるか、という問いを投げつけられる。
答えは与えられていない。
作者の主張はあるようで、声高には伝えられていない。
「こういう、深さと広さのある問題がある。さぁ、あなたはどうする? どう思う?」
最後はそこで終わっている気がする。

前に読んだ二作以上に重く、やりきれない話ではあったけれど、非常に質の高い作品だった。
最後のほうは涙が抑えられなかった。

でも、この小説を読み始めたときに豚インフルエンザが発生したので、かなり怯えてしまった(汗)

ただ、この小説の黒い粉を吐いて死ぬ病気は、ものすごい勢いで広がりそうで、初めの年、1年で21人しか感染しない。
こういう「怖い病気もの」は、ものすごい勢いで広がって、人がばたばた死んでいく恐怖を描くものだという先入観があったので、このはじめの設定自体からとても興味深かった。
そして、けっきょく、掛かったら100パーセントの人が死ぬという恐ろしい病気でも、かかる人が少ない場合、政府もあまり動かず、原因や治療法、ワクチンの開発も進まないこと、治療法が分かってきても、製薬会社も採算があわないと判断すれば、まじめに新薬の開発をしないこと......
そんな、別の意味の怖さも伝わってきた。
人数は少なくても、かかる人がいるということは、自分や愛する人がその病にかかるかもしれない可能性をいつも含んでいる。
でも、人は、その立場に実際に自分がおかれなければ、すべては「人ごと」として捕らえてしまう。

非常にレアな病気で苦しんでいる人は、きっと、今も現実に、多いのだろう。

新種の病気がはやり始めたとき、政府や研究者はどう動き、どんなふうに原因や治療法を探っていくのか、そんな普通の人は決して知らないようなことが緻密に書かれているので(山田さんは、製薬会社に勤めていたことがあるらしい)、本当、興味深かった。
豚インフルエンザがはやっている今、読むと、怖い、というのはあるけれど、ある意味、今だからこそ面白い、ということも言える。

2009年4月23日

「天使の代理人」山田宗樹

天使の代理人〈上〉 (幻冬舎文庫)天使の代理人〈上〉 (幻冬舎文庫)
山田 宗樹

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「嫌われ松子の一生」に続き、山田さんの作品をまた読んでみた。
 やっぱり上手い!
 
 好きな作家というのは、もちろんたくさんいるけれど、大体は「〇〇の部分にちょっと不満はあるけれど、でも、やっぱ、いいいんだよね~」という「好き」。
 でも、山田さんの作品は、文句のつけようがなく「上手い」。
 しかも、その上手さは、数をこなしたあとに身につけた職人的(だからこそ、どこか人工的。たとえば重松清さんとか......)な上手さではなく、個性とか主張とか深さとかそういうものとも、しっかり共存した上手さ。
 去年は、伊坂幸太郎さんに出会い、一目ぼれするかのように、その作品にはまり、1年でほとんどすべての伊坂作品を読んだけれど、今年の一番の出会いはこのまま行くと、山田宗樹さんの作品かもしれない。

「天使の代理人」は、一言で説明すると「中絶」がテーマの話。
 で、基本的には、「中絶反対」の立場で書かれている。
 ただ、独りよがりの、声高な主張なわけではなく、「助産婦として中絶の補助をし続けた罪悪感から、中絶反対の活動を始めた五十歳くらいの独身女性」「医療ミスでせっかく授かった子供を中絶させられてしまった二十代の女性」「迷いなく、あっさりと中絶をした二十歳の学生」「銀行でしっかりとしたキャリアを築いている三十代後半の女性」など、色々な立場、様々な考え方、価値観をもった女性の視点を使い分け、ある意味では、淡々と、論理的にストーリーを展開する。

 その、本当はあるのかもしれない主張の熱さと、感情的にそんな「主張」に流されない計算された物語の構成が、本当に上手い。
 すべての人がきちんと生きていて、リアリティがある。テーマは重く、笑いはないけれど、だからといって希望がないわけではなく、みんな悩みながらも、どこかで間違った選択をしながらも、基本的に心が綺麗だから、救いがあって、読後感はいい。

 この人間の書き方の上手さは、乃南アサさんにも似ている。
 乃南さんも、ミステリー作家ではあるけれど、いわゆるミステリーではなく、なんのトリックも、どんでん返しもなくても、「感情移入」だけで読ませてしまうところがあるけれど、そんな感じ(乃南さんの傑作は、「<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/457550579X/nagi-22/" target="_blank" title="風紋">風紋</a>」。犯罪被害者の家族をひたすら追った話だけれど、主人公が実在の人物に思えてならなかった。読み終わってしばらく経っても、あの子、大丈夫かな、と心配しちゃうくらい)。
 でも、男性が、女性だけ五人ほどの視点で物語を書いて、まったく違和感を生じさせないってすごい。しかもテーマが、中絶、妊娠、出産......と、男性が真正面からとりあげるものとは思えないものだというのが。
 後半、話に入り込んでいたので、あとがきを読んで書いたのが男の人だと思い出し、「うわぁ、そうだった。それって、すごい!」と改めて興奮してみました。

 しばらく追い続けたい作家さんです。

2009年4月 8日

山田宗樹「嫌われ松子の一生」

嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)
山田 宗樹

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映画の予告を見たくらいの情報しかもっていなかったので、周りから疎まれている変わった性格の人が、コミカルに描かれている作品なのだと思っていたが、読んでみたら、全然違った。

一人の女性の一生にまっすぐ、まじめに向き合って書かれた、結構重たい話だった。

でも、シリアスなのに重くなりすぎず、どんどん先にひっぱっていく力は、さすがとしか言いようがない。
久しぶりに、すごくいい本を読んだな、という満足感を得られた。

タイトルこそ「嫌われ松子」だけれど、読んでいると、「松子」に感情移入してしまう。
本当に「ついていない」としか言いようがない人生なのだけれど、それでも、いっときいっとき真剣に生きている松子を、つい応援する気持ちになっていた。

文庫のあとがきでは、松子だけが悪いわけではないけれど、もっと松子が未来のビジョンをしっかり持って生きていれば、こんな結末にはならなかっただろう。でも、誰にでも、こういう転落がありうるということだ、というようなことが書かれていたけれど、作者が伝えたかったテーマは、そんなことじゃないんじゃないかな......と、私は思った。

決して「成功」ではなかった人生だけれど、それでも、そのときそのとき一生懸命に生きて、誰かの心に何か残せばいいんじゃないか、と、私は読んだ。

この、「共感させる力」と、「物語を引っ張っていく力」には、すごく学ぶものがある気がした。
この作品自体はそう「ミステリー」という感じではないけれど、作者が推理小説でデビューしたということを知り、深く納得。

大学卒業くらいから時系列にそって進む松子の視点でのストーリーと、なぜ松子が殺されたのか、松子が死んだと知ったところから辿っていく「甥」の視点でのストーリーの絡ませ方が、本当に上手い。
こういう、視点や時間の流れを計算して、組み込めるようにならないといけないな、と思う。

この人のほかの作品も読んでみたい。

 

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