凪~小説・写真サイト~                    
  作品   レビュー   写真   日記   プロフィール
                     


2014年3月12日

薬丸 岳「刑事のまなざし」

刑事のまなざし (講談社文庫)刑事のまなざし (講談社文庫)
薬丸 岳

講談社 2012-06-15
売り上げランキング : 96844

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
★殺人事件を解決するミステリーでありながら、人の温かさや可能性も感じられる作品★

 椎名桔平が主演しているドラマの原作。
 なんとなくドラマは見損なってしまったので、本の方を手に取ってみる。
 ドラマの番宣で、椎名桔平が演じているのが、30代後半なのにまだ新人の刑事で、変わった経歴の持ち主だということまでは知っていたけれど、本を読むと、その刑事(夏目)の人となりや生き方が全編を通して、非常に活かされているのが分かる。

 本は7つの短編で構成されている。てっきり夏目の視点で書かれているのだと思っていたが、どの短編も夏目以外の人物の視点で描かれている。それがまた、夏目自体を効果的に描写するのにも役立っていて、非常にうまい構成だと感じた。

 刑事が出てくる小説だから、基本的には1編で1つの殺人事件が起こる。殺人ともなれば、やはり憎しみやマイナスの感情が関わってくるもので、当然この7作にも誰かしらの憎しみや、怒りの感情が表れる。でも、夏目の目を通し、解決されていくそれぞれの事件には、憎しみ以外の、慈しみとか愛情とか、もっと温かい人間の感情も存在していて、救われる。
 人の死なないほのぼのミステリーを書くのも難しいと思うけれど、殺人事件というものをしっかり扱いながら、どこかに人を信じたくなる温かい要素を取り入れた作品を書くのは、もっと難しいだろう。
 そういう意味で、作者の薬丸さんは力のある作家だなと思った。いくつか長編でも有名なものがあるようなので、今度は長編も読んでみたいと思う。

藤野 恵美「ハルさん」

ハルさん (創元推理文庫)ハルさん (創元推理文庫)
藤野 恵美

東京創元社 2013-03-21
売り上げランキング : 26344

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
★娘の成長を見守る父親のほのぼのミステリー★

 こちらは、決して殺人事件などは起こらない、ほのぼのミステリー。
 娘が小さいうちに妻が亡くなり、ほぼ男で一つで娘を育てた人形作家が主人公。その主人公(ハルさん)が、娘の結婚式に向かう途中で、幼稚園時代・小学校時代・中学校時代・高校時代・大学時代、それぞれの娘との思い出を振り返る形の連作短編集。

 それぞれで起こる事件は、幼稚園時代なら「同じ幼稚園の園児の卵焼きがお昼寝の時間に無くなった」など、本当にささやかなもの。でも、作者は児童文学出身者でありながら、自身は本格ミステリーの大ファンというだけあり、細かい伏線がたくさん仕掛けられていて、それがしっかり最後に回収される心地よさがある作品。
 5つの事件とも全部、人の悪意ではなく、善意が空回りして"事件"になってしまったようなもので、解決すると、"あぁ、そうだったんだね。良かった"という気持ちになる。ほっこりした気分になりたいとき、安心して読める作品だと思う。
 主人公の娘が、1編ごとに成長していく姿も微笑ましい。5つの事件を読んだあと、結婚式のシーンにつながるので、今まで育ててきた娘が巣立っていく結婚式のラストシーンも、ハルさんの気持ちに共感できる。
 いわゆる「ミステリー」ではないけれど、時々はこういう趣向のミステリーも楽しいなと思える作品だった。

 

Top ・ Works ・ Photos ・ Diary ・ Profile