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2013年5月26日

新庄 耕「狭小邸宅」

狭小邸宅狭小邸宅
新庄 耕

集英社 2013-02-05
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★不動産会社の営業がリアルに描かれている★

 去年の「すばる文学賞」受賞作。
「小説すばる」ではなく「すばる」の方なので、カテゴリー的には「純文学」ということになるものだけれど、決して飽きずに最後まで読める。ストーリーのしっかりとした軸がある本という感じかな。

 内容は、一言でまとめてしまうと、住宅販売会社に勤め始めた男性が、営業に苦労する話。不動産関連の営業も厳しいイメージはあったけれど、ここで書かれている会社はかなりの「ブラック企業」。パワハラや、労働法違反だらけ......(汗)

 でも、非常にリアル。
 あぁ、こんなふうにして家は売られているんだなぁ......ということが分かる。

 この小説の主人公が売っているのは、高級住宅街の一軒家なのだけれど、8,000万円くらいだと、そういう一等地では、"マイホーム"として思い描く理想の間取りなどはまず望めず、狭い土地で精いっぱいの建蔽率で立てる"ペンシルハウス"と言われるものになってしまうらしい。
 そこで、"いかにもペンシルハウス"という物件で納得してもらうか、それとも駅からの近さなど利便性を犠牲にしてもらうか......など、交渉をしていく。
 交渉といっても、"この物件の次にはこの物件を見せ、ここでこの予算だと、これくらいが相場ですよ、ということを徐々にわからせていき、最後にちょっといい物件を見せれば、客は納得する"みたいな、よく言えば"頭脳戦"。
 そういう一つ一つが、やけにリアルだった。

 ただ私が一番リアルに感じたのは、そういうつらい仕事を続けるなかで、主人公が常に"胃痛"を患っているところ。胃が痛くて物が食べられないという部分の描写に一番のリアルさを感じてしまった。

 ただ、決して明るい話ではないのだけれど、読み続けられないほどつらくは感じず、むしろ"きっとこれから自体は良くなる。もうちょっと頑張れ"みたいな気持ちで読み進められる本だった。
(最後まで読んで、報われるかどうかは、内緒)

 景気が悪かったり、求人の状況が悪いと、大学生の"就活"はどんどんハードになっていって、思ったところに内定がとれなかった大学生が、どこでもいいから内定をもらわないと、という気持ちに追い込まれていく。
 そうすると、そういう心理に付けこんで、大量に採用して、過度なノルマを課し、教育をきちんとすることもせず、"使えない"人間をどんどん切り捨てていく会社も多く現れる。
 そういう意味で、この小説には、現代の問題が真正面から描かれていたように思う。
 少し前に「商店街はなぜ滅びたのか」という本の「自営業の安定」という言葉を紹介したけれど、この小説の中には、「(自営業者なんて相手にするな)自営業は客じゃない」という言葉が出てくる。
 若者を追い込んでいるのは、この、「自営業はまっとうな職業ではない」という考え方と、「内定を取れない人間には存在価値がない」とでもいうような風潮なのだろう。
 こういうテーマの本を読むと、つい"社労士"の立場でも、色々考えてしまう。


 ところで、作者の経歴が「会社員」となっていたから、実際に住宅の営業を経験していた人なんだろうかと思っていたけれど、どうも違うらしい(リクルート出身だとか)。そういう意味では、取材力と想像力もすごいな。
 でも、ここまで書いてから作者のインタビューを読んだけれど、作者はこの会社を「ブラック企業だとは思っていない」らしい。恐るべし、リクルート(汗)
 http://renzaburo.jp/shinkan_list/temaemiso/130222_book01.html
 

宮本輝「優駿」

優駿〈上〉 (新潮文庫)優駿〈上〉 (新潮文庫)
宮本 輝

新潮社 1989-11-28
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★やっぱり宮本輝は別格!★

 久しぶりに宮本輝の作品を読んだ。「優駿」は20歳前後の頃に読んだと思うので、約20年ぶりの再会。
 20年経って読み直すと、より、宮本輝という作家の筆力、構成力とか、人間観察の鋭さが感じられる。
 基本的に私は、古典的な作家(三島由紀夫とか太宰治など)は呼び捨てにし、まだ存命の作家は〇〇さんと書くのだけれど、宮本輝は、私の中では、三島とか太宰と並ぶような"文豪"だなぁ。ということで、「さん」づけなしで。

「優駿」は映画にもなったし、非常に有名な作品なので、「あぁ、競走馬の話ね」くらいは、多くの人が知っていると思う。
 私自身も、若い頃に読み、「馬の話」と記憶していたのだけれど、改めて読み返してみると、決して「馬の話」とはまとめられない、人間の愛とか欲とか弱さとか汚さとか、純粋さとかまっすぐさとか......ものすごく奥深い「人間模様」の話だった。

 たとえばオラシオン(主人公?の馬)の生産者の息子と、所有者の娘との出会いと恋。その格差のある恋心故に、背伸びをし、自分の牧場をもっと規模の大きい立派なものにするのだと頑張るその息子の奮闘ぶり。
 また、オラシオンの所有者の会社の危機と、彼が妾に産ませていた息子との再会。
 その会社の存亡をめぐる、オラシオンの所有者と、実の息子のような絆で結ばれていたはずの秘書との変わっていく関係。
 オラシオンの騎手になる男が背負ってしまった暗い過去......。

 この小説は、オラシオンがうまれ、三歳になってダービーに出るまでの三年間を書いているのだけれど、それはオラシオンの成長の記録ではなく、その三年にオラシオンの周りで起きた様々な出来事の記録になっている。

 そしてその一つ一つのエピソード、一つ一つの出来事における人々の心の動きが非常に巧みに、精緻に描かれている。
 情景描写、心情描写とも卓越で、「文学」としても素晴らしい上に、構成やストーリーも計算尽くされていて、途中で読む人を決して飽きさせない「エンターテイメント性」もある。
 宮本輝は「泥の河」でデビューする前、「新人なのにうますぎる」という理由で新人賞を獲れなかったという話があるけれど、宮本輝の魅力は、「粗削りながらも、きらりと光る個性(←新人賞では、結構こういうのが好かれるように感じる)」ではなくて、しっかりとした努力に支えられた「王道の上手さ」なのだろう。

 特にこの「優駿」では、章ごとに視点人物を変えているその作りが非常に生きている。5人の視点で始めの5章が書かれ、さらに6~10章も同じ人物の視点で二順目、書かれ、最後の「終章」だけは、その五人全員の視点が細かく移り変わって、クライマックスのシーンを盛り上げている。

 社会や人間に対する鋭い視点は、一朝一夕で真似できるものではないけれど、構成の立て方や視点の使い方は勉強になる。

 この本は上下巻あって長いのもあり、1か月以上かけてのんびり読んでいたけれど、奇しくもダービーの日に読み終わった。
 実際の競馬についてはまったく知識はないけれど、今日のダービーの影にもきっと色々なドラマがあったのだろうな。

2013年5月25日

「9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係」

9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係 (PHP文庫)9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係 (PHP文庫)
鈴木 秀子

PHP研究所 2004-01-06
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★人間の本質は9つのタイプに分けられる★

 TA(交流分析)のいう「エゴグラム」と混同されがちなのだけれど、心理学の世界には、エゴグラムとは別に「エニアグラム」というものがある。

 以前から、人を「9つのタイプに分ける」という考え方は知っていたけれど、最近、エニアグラムを専門にされている人に出会うことがあり、再び興味を持って、本を購入。

 診断もあるし、それぞれのタイプの長所や短所について、細かく書かれているので、自分が多分、このタイプだろうというのを見つける参考になる。

■9つのタイプとは具体的には......

 1.完全でありたい人
 2.人の助けになりたい人
 3.成功を追い求める人
 4.特別な存在であろうとする人
 5.知識を得て観察する人
 6.安全を求め慎重に行動する人
 7.楽しさを求め計画する人
 8.強さを求め自己を主張する人
 9.調和と平和を願う人

 らしい。

 期待される役割や環境に応じて、外面は変わっても、根本的な部分として、「エニアグラムは一生変わらないもの」だというのが、この理論の特徴。

 どうも、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンという神経物質の「高」「中」「低」を組み合わせからきているタイプ分けらしい。そして、それぞれの物質が出やすいか出にくいかは、生まれ持ってほぼ決まっている、と。

 エゴグラムは、その時その時、環境によって左右されるし、「これを伸ばしたい」と思うと変えていかれるので、ある意味、研修などで使うと結果が出しやすいと思うけれど、エニアグラムの専門家によると、「ベースにあるのはエニアグラムのいう人の基本的な性質(OSみたいなもの)で、TAはその上に載っているソフトというイメージ。ソフトの方が変えやすいけれど、やはりベースを見て、相手に接した方が、相手には届きやすい」ということ。エニアグラムの理解もあると、人と接するときにはいいらしい。


 ただ本にも書いてあったけれど、「この人はこのタイプ」「自分はこのタイプ」とすぐに分かる人もいれば、判断が難しい人もいるということなので、本を読んでも、「まさに!」と思う人と、「結局自分は何だったんだ?」で終わってしまう人がいる可能性はある。
(でも、案外人のことの方が分かったりはするかも。それだけでも、その人への接し方が学べる)

 もし自分のタイプに自信が持てない場合は、多くの人の集まるセミナーなどに行って、自分と同じタイプだと思われる人と話をすると、確信が持てるケースも多いらしい。


 私は自己診断をすると「1」や「3」になるのだけれど、エニアグラムのプロの見立ては「9」だった(その方は、「名刺交換したくらいでも、大体タイプは分かります。顔立ちや服装、仕草、声の出し方、オーラみたいなもので感じ取れますね」と言われていた)。

 自分では自分のことを、「目標を定めて、そこに向けてコツコツ努力する人間」だと思っていたので、「あくせくせずに、のほほんと平和に暮らすのが一番だよ」みたいな「9」だというのは意外だったけれど......。
 でもまぁ、考えてみれば子供のころは、何をするのも一番遅くて、「マイペースです」と常に評されていたな......私(汗)

 
■無料診断は下記のサイトでもできるみたい。各タイプの説明も詳しく、親切
 http://shining.main.jp/enia9.html

2013年5月22日

佐藤 義典「売れる会社のすごい仕組み~明日から使えるマーケティング戦略」

売れる会社のすごい仕組み~明日から使えるマーケティング戦略
売れる会社のすごい仕組み~明日から使えるマーケティング戦略佐藤 義典

青春出版社 2009-08-01
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「お薦めマーケティング本」として紹介されていたので、マーケティングを初歩からきちんと学ぼうと購入。

 イタリアレストランをどう繁盛させていくか、というストーリー仕立ての本なのだけれど、読みやすいのに、中身は濃くて、びっくり!

 難しい内容を、非常に分かりやすい例で説明してくれている、とてもよい本だった。

 マーケティングをすでにかなり学んでいる人には物足りないのだろうけれど、「初級」から「中級」くらいまではまかなえそうな内容。
 特に、飲食業とか小売とかの「中小企業」の場合は、あまり専門的なことを勉強しても逆に使えないと思うので、これくらいシンプルな仕組みの方が、現実的で、使いやすいかもしれない。
 そういった意味で、たとえば社労士が、中小企業の社長と話をするとき、人事周りのことだけではなくて、商品の売り方についてもちょっとしたアドバイスをする、なんてときには、非常に使える本だと思う。
 社労士がマーケティングのプロになる必要はないと思うけれど、やっぱり、「どうやったら売り上げを上げられるか」が社長の一番の感心事なわけで(いや、一番は資金繰り?)。

 また商品のコピーを書くにしても、「誰に」「何を強調して」伝えるか、という戦略がなければ、文章がいくら読みやすくて、美しくても、何の意味もないので、やっぱりマーケティングの知識は大事。
 今まで「勘」でやってきたけれど、改めてしっかり知識が整理されて、非常に良かった。

★内容の一部を紹介★

■差別化には3つの軸がある
  1.手軽軸......安い・早い・便利
  2.商品軸......高品質・新技術
  3.密着軸......顧客の個別ニーズに対応
 自分の会社がどの軸でやっていくのかを決めなければ、ターゲットは誰か、競合はどこかは分からない。
 
■売り上げを上げるには5つの方法がある
  1.新規顧客の開拓
  2.既存顧客の維持
  3.購買頻度の向上
  4.購買点数の増加
  5.商品単価の向上
 どの方法で売り上げを上げていくのかを考えるときには、自分たちがどの差別化戦略を選んでいるかとも関わりがある。
 たとえば手軽軸なら、単価が安い分、お客の数を増やすために、新規顧客を常に開拓し続ける必要がある。商品軸なら、商品単価の向上を考えてもいいが、新規顧客開拓のために割引セールをするなどというのは、誤った戦略になる。

■潜在顧客がファンになるまでの7つの関門
  1.認知
  2.興味
  3.行動
  4.比較
  5.購買
  6.利用
  7.愛情
 現状、「ファン」が増えていないとしたら、どこで止まってしまっているのか考える必要がある。ボトルネックがあれば、その解消は大切だが、必ずしも若い番号から手を付けていけばいいわけではない。むしろ、下の方から手を付けたほうがいい場合も多い。
(たとえば利用した人の評価が悪く、ファンにならないのなら、「6」まで進む人の数を増やしても、クレームが増えるだけで、ファンは増えない)


 などなど、言われてみればもっともだけれど、自分のなかでしっかり整理されていない部分が、非常に分かりやすくまとめられていて、良い本だった。しばらくは手元に置いて、目の前の仕事に色々応用しながら、使えるようになっていきたいと思う。

 上記以外にも、「なるほど!」という解説や、言葉が満載なので、少しでもマーケティングに興味のある方にはお勧めです!
 

2013年5月 4日

川村元気「世界から猫が消えたなら」

世界から猫が消えたなら世界から猫が消えたなら
川村 元気

マガジンハウス 2012-10-25
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 今年の本屋大賞ノミネート作品。
 タイトルがなんだかいい。

 内容は簡単に言うと、余命わずかと宣告された30歳男性の前に悪魔が現れ、「〇〇を消したらあと1日、寿命を延ばしてやる」というようなことを言う。主人公は毎日、悪魔のその提案を受け入れるかどうか迷いながらも、"あってもなくてもいい"かもしれないし、実は大切なのかもしれないものを消していく......という話。

 奇抜な設定だけれど、そのもの(たとえば電話、たとえば映画、たとえば時計......)がある世界、なくなった世界に対しての主人公の感じ方、考え方については、頷ける部分も多く、突飛すぎる感はなかった。
 電話と時計についての捉え方はまぁ正直、常識の範囲を出ないところも多かったけれど、映画の章については、作者が「映画プロデューサー」なだけあって、映画に対する愛情を感じた。

 文体は非常に軽い。特に"悪魔"の語り方がふざけた若者言葉で、主人公が「あともう少しで死ぬ」という悲壮感は作品の中にまったく漂っていない。
 この本の宣伝で、角田光代さんが「小説だが、これはむしろ哲学書なのではないかと思えてくる」と書いているけれど、読んでみると、なるほど、という気がする。
 (もしかしたら角田さんにそういう意図はないのかもしれないけれど、)これは「小説」じゃないよね、と言いたくなる気持ちが分かる......(まぁ、小説ではあるけれど、文学じゃないという表現の方が適切かな)。
 少し前、自己啓発書の小説版と言われた「夢をかなえるゾウ」という本がはやったけれど、世界観としては、それに非常に近いなと感じた。

 おもしろく読めるし、設定も興味深い。普段当たり前のようにある物の存在意義を改めて感じられるし、そもそも命ってなんだろうという疑問も抱かざるを得なくなる。ラストはちょっと感動的。また映画の人だけあって、過去の説明の部分も、きちんと"シーン"として描かれていて情景が目に浮かぶ。そして猫がかわいい(笑)
 2時間くらいでさらりと読めてしまうし、読んで損はない本。

 ただ、非常に個人的な意見だけれど、これが本屋大賞じゃなくて良かったな、というのが正直な感想でもあるかな......。やっぱり本屋大賞は、もうちょっと"文学的"なものがいい。

2013年5月 1日

平田オリザ・蓮行「コミュニケーション力を引き出す」

コミュニケーション力を引き出す (PHP新書)コミュニケーション力を引き出す (PHP新書)
平田 オリザ 蓮行

PHP研究所 2009-08-18
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 望月先生がPDCA研修で薦められていた本を読んでみた。

"演劇人"である平田オリザさんと蓮行さんによる、「演劇ワークショップを活用した企業研修のすすめ」みたいな本。
 なかなか新鮮な視点がたくさんあり、面白かった。

 蓮行さんという人は初めて知ったけれど、京都で「劇団衛星」という劇団を主宰しているらしい。しかも「劇団衛星は全国的にも珍しい、団員全員がプロの劇団」ということ。
 私も「元演劇人」だけれど、大学時代は「劇団員がそれだけで食べていかれる劇団は四季だけ」というのが常識だった。
 でも、チケット代だけで経費と団員の"給料"を出そうとするからハードルが高いわけで、企業研修の講師や、学生に向けたワークショップの講師などの仕事を増やせば、"演劇"というのも立派に稼げる仕事に育つ可能性はあるのだな。......と、まずそこから、非常に感心してしまった。
 このあいだ読んだ高橋歩さんの本では、「自伝を出したいために出版社を立ち上げる」という経歴に目から鱗だったけれど、どんなことでも、"無理"とさえ決めつけなければ、可能にする方法は無数にありそうだ。

 と、まぁ、蓮行さんのプロフィールについて語るのはこの辺にしておいて......。

 この本は、「演劇」の歴史や、海外では「演劇」教育がどれだけ重視されているかなどを語る"理論"の章もあるけれど、多くは、「実際、演劇を使った研修って、どんなカリキュラムで、どんなことをするの?」ということについて説明するために割かれている。
 蓮行さんのお薦めする研修のプランは、初めは発声練習から始まるのだけれど、なぜ発声練習が必要なのか、という意味づけや、発声練習などしたこともない人にどうやって腹式呼吸での声の出し方を教えるかという細かいテクニックまでしっかり書かれている。
 たとえば発声練習の必要性については、「高くて大きな声は、危機を伝えるためには大切だけれど、内容は聞き取りづらい。しかも人をイライラさせやすい。しかし、トレーニングをせず、人間本来のプログラムで大きな声を出そうとすると、自然と声は高くなってしまう。だから発声練習をすることで、大きいけれど人を不快にさせない声を出せるようにることは大切だ」......というような感じに、きっちり説明されている。さすが京大卒!(笑)

 発声練習のあとは、カラーボールを使ったワークや、一分間スピーチ、そして最後は実際にチームで10分ほどの創作劇を作るワークまで、びっしりカリキュラムは続く(はじめに紹介されるのは3日間のカリキュラム)。
 でも、それぞれのワークについて「意義」「やり方」が詳細に書かれているし、3日も取れない場合はどうしたらいいか、などの案、「一分間スピーチ」やワークの応用版などについても親切に書かれている(たとえば「一分間スピーチ」の応用としては、自分のことではなく、人に簡単なインタビューをし、その人を紹介する形のスピーチをしてもらうとか、「もしあなたが社長だったら、1分間社員の前で何を言うか考えて、話して」というテーマを出すとか)。

 研修の講師に慣れた人なら、これを読むだけでも一部、自分の研修に取り入れられそうに思える。
(まぁ、やるからにはちゃんと「演劇の実演」からしっかりできたらいいと思うけれど)

 また、実際、研修に取り入れるかどうかはおいておいても、企業が必要としているコミュニケーション力とは何なのか、「演劇」を通して身に着けられる社会人に必須の能力というのは何なのか、など考えるのは、教育研修に携わる人にとって損はないだろう。
 ということで、企業研修の仕事をしている方には、広くお薦めの本でした!

 

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