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2013年2月 3日

道尾秀介「光媒の花」

光媒の花光媒の花
道尾 秀介

集英社 2010-03-26
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 道尾さんの作品は、なぜか今まで敬遠してしまっていたところがあったのだけれど(難解な小説というイメージが強く)、最近の書評などを見ると、「書くごとに成長し、変化している作家」らしく、この「光媒の花」は、もはやデビュー当時の「ミステリー」ではなく、かなり純文学的な要素の強い、非常に良質な文学作品だった。


 旅に出る前の羽田空港の、時間つぶしで入った本屋で、「山本周五郎賞受賞作」の帯に惹かれて手に取って、読んでみたら、二、三ページで世界に引き込まれてしまった。そして、荷物が増えるのの思わず買ってしまった......といういきさつの本。
 何だろう、この数ページで世界を作り出せる力......。


 多分、道尾さんはミステリーでデビューしている人だから、ストーリーの構築力もある人なのだと思うけれど、この短編集で一番感じたのは、文章表現力のほうかな。
 表現力をしっかり持っている人は、どんなに淡々としたシーンでも、読者をひきつけられるように書けるのだろうと思う。
 以前私は、「どんな小説を書いているの?」と聞かれると、「別に、何も起こらない、日常の日々」などと答え、「つまらなそうだね」という返事をしばしばもらっていたが(汗)、私の中には、「何も起こらない淡々とした日常」を魅力的に描ける文章力こそ作家にとって重要な力だ、という想いはずっとある。
 そういう意味で、道尾さんのこの文章力、表現力は、自分が憧れ続けているものの気がする。


 あ、ただ、誤解されないように言っておくと、この短編集は、それぞれストーリーや設定なども非常に綿密に練られ、その部分でも完成している。
 6つの短編は、登場人物が弱く重なり合いながら、それぞれの世界を創り出している。それぞれに完結しているけれど、どれも飛び出たり、ひっこんだりせず、同じようにしっかりとした安定した質で作られていて、6つ読み終わると、それで1つの作品が完成した、ようにも感じられる。


 悲しかったり、残酷だったりする部分もあるけれど、それでも人の心の温かさは随所に見られる。
 個人的には、宮本輝の初期の作品、「泥の河」とか「蛍川」などを思い出した。宮本輝は「蛍川」で芥川賞を獲っているけれど、「泥の河」で太宰治賞を受賞してデビューする前に、「蛍川」をほかの賞に送って落選しているらしい。そのときの落選理由が「上手すぎる」だったとか。多分、もっと新人らしい、「粗削りな才能」を求めていたんだけれど、完成されすぎているということだったのだろう。
 道尾さんの「光媒の花」にも、「上手すぎる」ほどの完成度を感じた。


 正直、この本の後に「ひまわりの咲かない夏」を読んで、「???」だったので、私にはちょっと初期の道尾作品は合わないようだけれど、「光媒の花」以降の作品はまた読んでみたいと思う。
 もしかしたら、「好きな作家は?」と言われたとき、今後、名を上げることになるかもしれないな、と思うくらい、良い出会いになった本でした。

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