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2013年2月25日

タル・ベン・シャハー「ハーバードの人生を変える授業」

ハーバードの人生を変える授業ハーバードの人生を変える授業
タル・ベン・シャハー 成瀬 まゆみ

大和書房 2010-11-18
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 小説のあいまに、こんな本も読んでみた。
 52章からなる、人生を変えるヒント集、みたいなもの。
 各章、3ページずつくらいなので、ひとつひとつを掘り下げているというよりは、こういう視点で人生を考え直してみると、今までとちょっと変わるかもしれませんよ、という「ヒント」が散りばめられている感じの本。
 結構「あ、それ他の本でも読んだ」ということが多かったけれど、でもそれぞれはやはり、色々なところで言われているだけあって、「確かに重要だよね」ということ。
 たとえば、「感謝する」から始まり、「運動をする」「失敗から学ぶ」......など。

 でも、52個を全部取り入れられるわけではないし、すでにそれはやっている、というのもあるけれど、52個のうちから、3つでも、5つでも、今の自分に必要だと思われる「変化」を選んで、日々の生活に取り入れていくのは悪くないと思った。
 私の場合はたとえば、毎日自分が何に何時間使っているかを書き留めて、次週の計画を立てる(もっとこれを増やして、これを減らそう、という)役に立てようとか、気持ちが落ち込んだときでもちょっと幸せになれる「ハピネスブースター」をリスト化してみよう、とか、習慣にしたいことをあらかじめスケジュールに組み込んで時間を確保するようにしようとか、考えてみた。
 ま、考えるだけではダメなので、次は行動を、ですが。

 ただこの52個のうちで一番私の心に残ったのは、
「誰にも知られることはない」という魔法にかかる、という話。
 いいことをしても、誰も褒めてくれない、感謝の言葉もかけてくれない。人と会って普通に話すことはできるけれど、みんな「普通の仕事をしているんだろう」と思うだけで、何をやっているか尋ねてくることもない。お金持ちになることもできるけれど、持っているものをすごいと言われることもない。
 そんな状況になったとき、あなたはどんな生活をしますか?
 という質問。
 この質問を考えることで、自分が本当にやりたいこと、人の評価のためではなく自分自身のために送りたいと思っている生活が見えてくる、と。
 もちろん、そんな状況になることはないから、それなりに社会に適応した生活はしないといけないわけだけれど、時々立ち止まって、この質問を自分に投げかけるのは大切なことなのかもしれない、と思った。

沼田まほかる「痺れる」

痺れる痺れる
沼田 まほかる

光文社 2010-04-20
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 知り合いに薦めてもらい、初めて沼田まほかるさんの本を読んでみた。
 ホラー大賞でデビューした人らしい。ホラーは苦手なのもあり、今まで全然知らなかったが、調べたら、去年は本屋大賞にノミネートもされていた。大衆受けしそうな作風ではないけれど、一部のコアなファンがつきそうな作家だな、と思った。
 今回読んだ「痺れる」は、9つの短編からなる作品集。
 どれも独特の世界観で描かれている。非常に「文学的」な作品だと感じた。
 個人的には、9つの作品のうち、5作品くらいを心地よく読め、特に「ヤモリ」「沼毛虫」の2つを気に入った。ただ、2,3作品は、気持ち悪いだけで、ちょっとなぁ......というものもあった。それだけ、異なったテイストのものを描けるということなのだろうか。
 いかにもホラーっぽい題材を、ホラーのまま描いたものもあれば、緻密に描き出された日常の風景にホラーの要素が混ざっているものもあり、また、文体からして普通の感性を持った人を撥ねつけているようなものもあった。
 一言でいうと、「芸術家の書いた小説」という感じの本だった。

 ストーリーの不気味さに、ちょっとした細部の描写の不気味さがうまく合っているところに才能を感じた。
 たとえば「ヤモリ」では、初めに家でよく見るヤモリの描写があるのだけれど、ヤモリの目の奥に感じた闇が、あとで井戸の中の闇に重なっていく。この絶妙な伏線は、芸術だ。
 沼田さんは、ヤモリだとかナメクジだとか沼毛虫だとか......そういう"小道具"の使い方が非常にうまい。
 最初数作品読んだときは、ちょっと小川洋子さんの初期のころの作品と重なった。私は大学時代、好きな作家は小川洋子さんと答えていたのだけれど、小川さんの初期の作品も、美しさと残酷さを併せ持つ"芸術作品"だった(小川さんの初期の作品は日本ではなく、フランスで映画化されているというのも、納得できる)。
 ただ小川さんが好んで描くのは研究室や病室だったのだけれど、沼田さんはそれが「庭」や「虫」になっている。多分、こういう隠しきれない心の深い部分での偏愛みたいなものには、作家の深層心理が表れているのだろうな。

 それにしても、沼田さんの「主婦、僧侶、会社経営などを経て、2004年に『九月が永遠に続けば』で、第5回ホラーサスペンス大賞を受賞し、デビュー」という経歴はなんなのだろう。
 僧侶? そして僧侶のあとに会社経営?
 経歴も、奇妙だ(笑)

 決して万人受けはしない作品だと思うけれど、ちょっと変わった読書体験をしてみたい人にはお薦めかな。私自身にとっては、半年か1年に1冊くらいのペースで読みたくなるだろうな、と思える世界でした。結構刺激になりました。
 お薦め、ありがとう!

2013年2月17日

喜多川 泰「「また、必ず会おう」と誰もが言った。」

「また、必ず会おう」と誰もが言った。「また、必ず会おう」と誰もが言った。
喜多川 泰

サンマーク出版 2010-11-18
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 以前、電車の広告で見て、素敵なタイトルだなと思い、メモしていた本。
 今年に入って時間がようやくできてきたので、過去数年分の「気になっていたもの」に手を出し中。

 小説なのに「サンマーク出版」?
 と思っていたけれど、確かに、"文学"ではなかった。

 いっとき流行った「夢をかなえるゾウ」みたいに、自己啓発っぽい内容が小説になっているといったほうが、「文学」というより近い。
 あまり描写や言葉の選び方には神経が使われていず、ストーリーもかなりご都合主義で作られている。
 そういう「なんちゃって小説」はどうも嫌いなのだけれど、途中で作者が学習塾を創設した人ということを知り(途中で著者略歴を見た)、途中から俄然、評価は上向きに(笑)

 主人公は熊本の高校生。ひょんなことから一人で東京に出てきて、飛行機に乗り遅れ、お金もないし、帰れなくなってしまう、というところから物語は始まる。
 そして、色々な人と出会い、助けられながら、また、出会った大人から様々なことを学びながら、家まで帰るというストーリー。簡単にいっちゃえば。

 でも、主人公が大人たちから学ぶ一つ一つのことは、作者が本当に今の子供たち(もしくは子供を育てる大人たち)に伝えたいことなんだろうな、ということが、読むうちにじわじわと伝わってきた。
 それはまた、10年ほど塾業界にいた自分が伝えたかったこととも、重なる。

 特に共感したのは、子供の持つ無限の可能性を引き出すために必要なのは、信頼してくれる人がいるということと、待つことだという部分。
 私自身は3つの塾で仕事をし、就職活動では10社以上の塾を回ったけれど、教育に大切なのは生徒を信じて待つことだと教えてくれた人のいる塾もあれば、「教育に一番大切なのはなんだと思うかと聞かれ、『生徒の成長を信じて、待つこと』と答えた私に、『待っているだけじゃ、ダメでしょう』と、あきれたように言った人がいた塾もあった。
 なんか、そんなことを思い出した。

 そのほか、いくつか心に残った言葉を。
「あなたにとって居心地のいい場所は、まわりの人があなたに何をしてくれるかによってじゃなくて、あなたがまわりの人のために何をするかによって決まるの」
「学校というのは、持つ必要のない劣等感を持たされる場所でもあるからね。他の人が何かを達成したとか、認められたという経験がそのまま、自分を否定されたような気持ちになりやすいんだろう。でも、実際はどんな人だって、誰かの喜ぶ顔を見たい、そのためならなんだってできるという一面を持っているんだ。それに気づいたら、その一面を大切にしたほうがいい」
「一人ひとりには、そいつに合ったメガネがある。(略)他人のメガネをかけて世の中を見ている奴に限って、この世は生きにくいとか、苦労が多いとか、いいことがないとか、平気で口にする。ワシに言わせりゃ当たり前じゃ、そんなもん。いつまで他人のメガネで世の中を見てんねんって言いたい」
「わけもわからず、他の人が幸せやと言うてるものを追い求めたり、他人が持っているものを手に入れようとするんが人生やないで」

 できすぎていると思いながらも、読んだ後、ちょっとあたたかい気持ちになることもできる本だった。
 子供に読ませてもいいけれど、子供と接する大人が読んでもいい本だと思う。
 映画化も予定されているらしい。

道尾秀介「光」

光
道尾秀介

光文社 2012-06-08
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 道尾さんの小説をまた手に取ってみた。今度は、小学校高学年か中学生の夏休みの宿題の「読書リスト」に入ってしまいそうな、小学生を主人公にした、非常に健全で、明るい作品だった(あ、でも小学生には難しすぎると思うけど)。
 すごい、こんな作品も書けるんだ~、と思う。幅、広すぎ。作者を隠して本を渡されたら、当てられないな、きっと。

 今回は、小学校4年生4人組(+そのなかの一人の姉と、たまに小学校3年生の子が加わる)を主人公にした7つの短編集。
 それぞれの章でちょっとした事件が起きて、解決するという構成なのだけれど、すごく大きな事件が起こるわけではなく(最後だけちょっと大きいけど)、基本、日常のほのぼのした出来事が描かれている。
 ただそのなかにも、ちょっとしたミスリードが含まれていたり、さらりと書かれているようで構成は凝っていて、そこはさすが道尾さん、という気がする。

 小学生4人組は、分かりやすく性格が割り当てられている。そういう意味では、自分が小学生のころによく読んでいた子供向けの探偵系の本を思い出す。ただ、やはり心理描写は深みがあり、それぞれの心の動きや痛みが伝わってくる。
 子供のころにはすぐ身近にあったはずの自然とか、秘密基地的な場所とか......なんか懐かしい。ときどきちょっと深刻にもなるけれど、みんな純粋で、友情でつながれていて、安心して読めるストーリーだった。

「向日葵が咲かない夏」にもファンは多いみたいだけれど、あの結構難解な世界からは、ずいぶん"一般の読者"のところに目線を下げてきているな、というのが一番の感想。
 きっとデビューして五年以上経ち、読者の存在をきっと身近に感じるようになってきたのだろうな、などと勝手に想像していたが、twitterを見たら、ファンからの質問にはすべて事細かに答えていて、「おぉ、なるほど」と思った。その会話を傍で見ているだけでも、気取らなくて、なんか素敵な人だな、と感じた。

 きっと道尾さんはこれからも、さらに表現力や構成力など腕は磨きつつ、でも目線は"読者"にしっかり合わせて、素敵な作品をたくさん書いてくれるのだろうな、と感じられた本でした。しばらくいろいろな作品を読んでいきたい。

2013年2月 3日

「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」

山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた
山中 伸弥 緑 慎也

講談社 2012-10-11
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 小説ではないけれど......iPS細胞を開発し、ノーベル賞を受賞された山中信弥氏のインタビュー本を読んだ。
 色々なジャンルの本を読むと、刺激になっていい。

 この本を読んでようやく、iPS細胞はどうやってできたのか、ES細胞との関係は何かなどが分かった。
 一般的に言われている説明なのか、山中さんの作り出した説明なのかはわからないけれど、色々なところで、例えを使った説明があり、分かりやすくなっている。
 たとえば、皮膚の細胞をiPS細胞にすると、細胞が初期化されるというのだけれど、その初期化というのは何かと言うと、もともと皮膚の細胞であっても、「体全体の作り方が分かる本一冊の情報を持っていて、皮膚の細胞になっているというのは、皮膚の作り方の部分にしおりが挟まっているだけ」で、iPS細胞にするということは、「そのしおりをとって、ほかの器官にもなれる細胞にすること」らしい。
 ↑文系の私の要約なので、正確には本を読んでください!!

 また、iPS細胞によって、色々な臓器が作れるようになるということで、一般の人は、「移植するための臓器を作る」ということをまず真っ先に考えるけれど、もっと実用化が早いのは、iPS細胞を使ってさまざまな病気の臓器を作りだし、創薬の実験をすることだというのは、初耳で、勉強になった。

 科学的な話以外に心に残ったのは、アメリカの研究所にいたときに所長に言われたという「VW」の話。その所長は「大切なのはVWだ」と言うのだけれど、そのVWとは、「ビジョン」と「ハードワーク」だという話。
 日本人には「ハードワーク」をする人は多いけれど、ビジョンを持ってハードワークをしている人は少ない、という言葉は耳に痛いかもしれない。
 その点、山中さんはノーベル賞の受賞が決まっても「これを再生医療に一日も早く生かせるようにしたい。それまでは、まだまだ道半ば」というようなことをコメントしていたけれど、自分の研究が人に役立っている明確なビジョンが描けているのだろうな。
 今、自分が頑張っていることは、誰にどんな役に立つのか......?
 その問いにすぐに答えられないようなら、一度立ち止まって、自分の進むべき方向をもう一度考えたほうがいいのかもしれない。

道尾秀介「光媒の花」

光媒の花光媒の花
道尾 秀介

集英社 2010-03-26
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 道尾さんの作品は、なぜか今まで敬遠してしまっていたところがあったのだけれど(難解な小説というイメージが強く)、最近の書評などを見ると、「書くごとに成長し、変化している作家」らしく、この「光媒の花」は、もはやデビュー当時の「ミステリー」ではなく、かなり純文学的な要素の強い、非常に良質な文学作品だった。


 旅に出る前の羽田空港の、時間つぶしで入った本屋で、「山本周五郎賞受賞作」の帯に惹かれて手に取って、読んでみたら、二、三ページで世界に引き込まれてしまった。そして、荷物が増えるのの思わず買ってしまった......といういきさつの本。
 何だろう、この数ページで世界を作り出せる力......。


 多分、道尾さんはミステリーでデビューしている人だから、ストーリーの構築力もある人なのだと思うけれど、この短編集で一番感じたのは、文章表現力のほうかな。
 表現力をしっかり持っている人は、どんなに淡々としたシーンでも、読者をひきつけられるように書けるのだろうと思う。
 以前私は、「どんな小説を書いているの?」と聞かれると、「別に、何も起こらない、日常の日々」などと答え、「つまらなそうだね」という返事をしばしばもらっていたが(汗)、私の中には、「何も起こらない淡々とした日常」を魅力的に描ける文章力こそ作家にとって重要な力だ、という想いはずっとある。
 そういう意味で、道尾さんのこの文章力、表現力は、自分が憧れ続けているものの気がする。


 あ、ただ、誤解されないように言っておくと、この短編集は、それぞれストーリーや設定なども非常に綿密に練られ、その部分でも完成している。
 6つの短編は、登場人物が弱く重なり合いながら、それぞれの世界を創り出している。それぞれに完結しているけれど、どれも飛び出たり、ひっこんだりせず、同じようにしっかりとした安定した質で作られていて、6つ読み終わると、それで1つの作品が完成した、ようにも感じられる。


 悲しかったり、残酷だったりする部分もあるけれど、それでも人の心の温かさは随所に見られる。
 個人的には、宮本輝の初期の作品、「泥の河」とか「蛍川」などを思い出した。宮本輝は「蛍川」で芥川賞を獲っているけれど、「泥の河」で太宰治賞を受賞してデビューする前に、「蛍川」をほかの賞に送って落選しているらしい。そのときの落選理由が「上手すぎる」だったとか。多分、もっと新人らしい、「粗削りな才能」を求めていたんだけれど、完成されすぎているということだったのだろう。
 道尾さんの「光媒の花」にも、「上手すぎる」ほどの完成度を感じた。


 正直、この本の後に「ひまわりの咲かない夏」を読んで、「???」だったので、私にはちょっと初期の道尾作品は合わないようだけれど、「光媒の花」以降の作品はまた読んでみたいと思う。
 もしかしたら、「好きな作家は?」と言われたとき、今後、名を上げることになるかもしれないな、と思うくらい、良い出会いになった本でした。

2013年2月 1日

箭内博行「約束の島、約束の祭」

約束の島、約束の祭約束の島、約束の祭
箭内博行

情報センター出版局 2008-05-23
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 今、沖縄の島を舞台にした作品を書いているので、もともとはその参考文献として手に取った本。
 普段、そういう小説の参考に読んだ本は、敢えて人に教えたりしないのだけれど、この本は良かったので、ご紹介!

 作者はフリーのカメラマン。もともと写真は好きだったけれど、写真を仕事にすることは考えず就職するが、理不尽なリストラにあい、退職。
 そのあとたまたま訪れた沖縄の島(竹富島)で、「種子取祭」という素敵な祭りがあるから、その時期に是非また来るといいと「おばあ」に言われ、その約束を守って、祭りを撮りに行く。
 そこから沖縄の祭りにはまり、様々な祭りを9年に渡って追いかけ、紹介したのがこの本。

 本業はカメラマンなので、文章に変な作為がないのがいいのか、この作者・箭内さんの人柄が非常に素直に伝わってきて、会ったことはないのに、ファンになってしまったというか、応援したくなってしまった(そのため、はじめは図書館で借りて読んでいたのだけれど、途中で購入!)。
 沖縄の島の人たちの懐に、すっと入り込み、祭りに対する想いを聞いていく、その姿勢と、箭内さんを通して見えてくる、観光で行くだけでは決して見えない沖縄という島の文化と人の想い。
 私にとって沖縄というのは、ダイビングをしに行く海がきれいな場所でしかなかったけれど、沖縄にはこんなにピュアな「信仰心」が残っていて、それがこんなにさまざまな「祭り」という形になって表れているのだということを知ることができたのは、非常に良かった。
 私は、沖縄には8月末によく行っていたので、与那国島ではちょうど祭りの日にあたったことがある。その日は民宿の人もばたばたしていて、「夕食は千円渡すから、適当に食べてきて」というような扱いを受けたけれど(汗)、民宿のなかに祭りの人たちが入ってきて歌ったり踊ったりしているのを、まるでその家の住人かのように見せてもらったのは、いい体験だった。ただ、8月末から9月頭が「旧盆」で、沖縄の人にとってのお盆だったのだということは、この本を読んで初めて知った。
 色々な本を読むと、自分の知っている世界の狭さを痛感する。世界はもっとずっと広い。そしてもっとずっと深い。

 本の中では10種類の沖縄の離島(八重山諸島)の祭りが紹介されているので、「こんな祭りがあるんだ」と興味深く読むこともできるし、一人の青年の旅エッセイとしても楽しく読める。
 沖縄好きな人、祭り好きな人、エッセイやノンフィクション好きの人、人とのあったかい交流に触れたい気分の人......などにお勧めです☆

 でも、いいノンフィクションの作品に出会うと、「フィクション」の作り手としては、身が引き締まる思いがする。どうやったら、フィクションは、ノンフィクションに敵うのだろう、と。
 これは、ひとりごと(笑)

辻内智貴「野の風」

野の風野の風
辻内 智貴

小学館 2006-04
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 辻内さんの作品は、なんとなくすっと自分になじむ感じがする。
 エンターテイメント的な、ストーリーの起伏はないのだけれど、人と人が出会って、ただしゃべっている感じとか、ぼんやりと景色を見て何かを思う感じだとか、あぁ、分かるなって。

 野の風は4つの短編集からなっている。冒頭の「野の風」が長さとしては、その半分くらいを占めている。
「野の風」は、父の危篤の連絡に駆け付けた夫婦と子供、3人家族の話。
 田舎に戻り、仕事から離れることで、いったい忙しく働き、心を失っていた自分の生活ってなんだったんだろうと思う......という、一言でいってしまえば、よくある話。
 でも、辻内さんの作品には、それだけのことをしっかり読ませる力があるような気がする。特に文章がうまいとか、表現が凝っているというのではないのだけれど、その自然さが逆に、読者にすんなり想いを届ける力になっているというか。
 脳死状態になり、機械につながれて命を長らえさせる父を見ながら、この社会もこんな不自然な装置なのかもしれない、と思う。しかもその装置は人間の「欲望」をエネルギーにして、動いている、と。その感覚はとてもよく分かった。
 そして、きっと辻内さん本人も、その装置の中でうまく暮らせないで、あがいている人なんだろうな、という気がした。
 最後は、主人公の、そんな社会の対する批判の混じった、独白(意識のない父親に対する言葉だけど)が続く。
 素人がこんな書き方をしたら、一発で下読みに落とされるだろうな、というような"文学的"ではない構成だけれど、そのストレートな言葉が、まっすぐに届いた。
 それは何の力なのだろう。「小説」というものにおいても、最終的には「文章力」ではなくて、書く人の「人間力」みたいなものが、問われるのかもしれないな。
 なんてことを、この作品を読みながら考えた。

 2話目と3話目も、じんわりと心に届く作品なので、お薦め。

 

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