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2013年1月28日

窪 美澄「ふがいない僕は空を見た」

ふがいない僕は空を見たふがいない僕は空を見た
窪 美澄

新潮社 2010-07
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 本屋大賞2位になったときあたりか、テレビでも紹介されるようになり、さらに最近映画化もされ、気になっていた本をようやく読んだ。

 五編の短編集。でも登場人物は共通で、一つの事柄の前後について、五人の視点で描かれている感じ。

 一番初めの「ミクマリ」という作品が、作者のデビュー作。
「女による女のためのR-18文学賞」受賞作品ということで、最初の作品は官能小説っぽい。電車の中で読むのがためらわれるような、直接的な表現も多く、苦手だと思う人は苦手かも。
 1作目から、作者の表現力や、設定、人物の配置などにはうまさを感じたものの、正直読み始めは「へぇ......」という感じだった。

 ただ、読み進めるにつれ、物語はどんどん立体的になっていく。第1話では20代後半の女性と男子高校生の情事が、高校生の視点で書かれているのだけれど、第2話は20代後半の女性のほうの視点で描かれる。それを読むことで、「あぁ、この人はこういう人生を歩んできて、こういう環境に置かれていて......だからか......」と、少し分かったような気持ちになる。

 3話からは、第1話、第2話の物語が終了したあとのお話。
 第3話の視点人物は、第1話の高校生に思いを寄せる女子高生。第4話の視点人物は、第1話の高校生の友人。第5話は、第1話の高校生の母親、なのだけれど、第1話の二人の話と関係もありつつ、でもそれぞれの人物の世界の話になっている。

 第4話、第5話あたりになると、性的な描写はほとんどなく、「性」よりもむしろ「生」についての物語になっていく。

 第4話では、貧しさの象徴と思われている"団地"で、祖母とふたりで暮らす高校生が、"団地から抜け出す"決意をする話。第5話は、助産院を営む"母"が、自らの子育てに迷いつつも、力強く子供を取り上げて生きていく話。

 私は4話あたりで、かなりこの作者のファンになった。
 正直第1話、第2話あたりまでは、「確かにうまいけれど、次の作品は読まないかも」と思っていたけれど、最後まで読んだときには、ほかの本も読みたいという気持ちになってきた。

 本来は官能小説に分類されるであろう作品から始まっているからだろうか、ほかの普通のエンターテイメント作品とは違った切り口の、非常にオリジナリティあふれる作品になっているように思えた。

森絵都「つきのふね」

つきのふねつきのふね
森 絵都

講談社 1998-06-24
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森絵都さんの文章はうまい。
児童文学というジャンルから飛び出して、直木賞作家になっただけあるな、と思う。

「つきのふね」はまだ児童文学作家だったころの、「児童文学」にカテゴライズされる作品だけれど、大人が読んでも胸にぐっとくる......むしろ大人が読んだほうが、心に迫ってくるものを感じられる作品になっている気がする。

主人公は中学生の女の子。主な登場人物はその友人2人と二十代前半の男性の4人、ということで、中学生を中心とした物語。
でも、子供じみた感じはない。ただ代わりに、大人が忘れてしまったような、非常にピュアで透明な、だからこそ痛みを感じやすい心が描き出されていて、切ない。

簡単に言えば、4人の「友情」の話。「つきのふね」というタイトルは、生きづらさを抱えた二十代前半の男性が設計する「人類を救うための船」からきている。ノアの方舟みたいなものか。

その「つきのふね」のちょっと現実離れしたイメージと、実際に中学生たちが不安な心を抱えてさまよう夜の街の描写がきれいに重なり、ひとつの世界を浮かび上がらせている。美しい。

ストーリーもさることながら、ちょっとした表現、言葉の使い方もいい。
切ないけれど、あたたかさもたくさん詰まっていて、最後はぐっとくる。

あぁ、また森さんの本を読みたいな、と思えた一冊だった。

 

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