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2009年10月24日

「わたしの中のあなた」

気になっていた映画を見てきました。

白血病にかかった姉と、姉に臓器提供するために作られた妹。
そして、娘をどうにか救おうと弁護士の仕事もやめ、人生のすべてを捧げる母。
ちょっとしたきっかけでゆがみが露出し、壊れてしまいそうな「家族」を支える父と弟。

設定から予想されるとおり、やはり深刻で、悲しい話だったけれど、そんななかでも、一生懸命笑い、楽しみ、家族であろうとする五人の姿は、決してただ悲しいだけのものではなく、心に刻まれた。

映画の話は、まだ11歳の「妹」が、「これ以上、姉に臓器提供するためだけに生きていくのは嫌だ」と、有名な弁護士のもとを訪れ、両親を相手に裁判を起こす、というところから始まる。

映画の宣伝では、そんな行動に出た妹の真意はなんだったのか? ということを前面に出し、広義のミステリーのように売り出しているけれど、実際見てみると、最後のそのストーリーの展開より、それまでの、ひとつひとつのエピソードのほうが心に残る。
確かに最後にはちょっとした「どんでん返し」があるけれど、驚くというより、「なるほど」といった感じ。ストーリーをうまく集約させるためには、この設定しかなかっただろうな、と。

姉を演じていた役者が良かった。
決してすごくきれいな人のわけではなく、抗がん剤の副作用で髪の毛がないシーンが多いのだけれど、それでも一生懸命に笑って生きている姿がとても素敵だった。笑顔の力ってすごいな、と思う。

この映画を一言で評価するなら「良質な作品」という感じかな。
弁護を頼まれた弁護士、たまたまその裁判の担当になった裁判官まで含めて、一人ひとりをとても丁寧に書き出している。
表現のプロとアマチュアを分けるのは、そういう細部に対する心配りの差なのかもしれない。

悲しいけれど、決して救いがない映画ではない。
家族の衝突も、一人ひとりが一生懸命に誰かのことを想うから。
もしかすると最後に語られる「真実」にも、語られないもっと深い想いがあったのではないか、とも感じられる。

どんな状況でも人は笑えるし、前向きに道を切り開ける、というメッセージも受け取れる。
いい映画です。

東野圭吾「宿命」


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結構初期の頃の作品だと思うけれど、はじめからこの人は本当に上手かったのだな、と改めて感じさせられる作品だった。

非常に楽しんで読めた。

小学校の頃から"ライバル"だったふたり。そのうち一人は警察官になり、もう一人はある事件の関係者になる。警察官になった主人公は、元ライバルを疑い、追い詰めていくが、結末では思いがけない二人の"宿命"が明かされる。

文庫本のラストで東野さんのインタビューでのコメントが紹介されていた。

「初期作品のような、殺人事件があって、トリックがあって、犯人はこの人、というような意外性だけの作品では物足りなくなってきました。これならいくつ書いても同じだと思うんですね。まだ試行錯誤の段階ですが、ミステリーではないといわれてもいいから、そいういう作品は避けて通りたいと思っています」

この言葉は、重い。

少し前に東野さんの「探偵の掟」を紹介したけれど、東野さんが、はじめはトリックを命にした「本格推理」を書いていたけれど、次第に「もっと広い意味でのミステリー」を模索し始めたことが、よく分かる。

でも、ピカソやダリは、奇想天外な絵を描きながらも、その基本には誰にも負けないほどの基礎的なデッサン力があった。

ミステリー作家にも、「本格推理」を書く力というのが"基礎力"として必要なのかもしれない、などということも思った。

でも、東野さんの作品を読むと、ミステリーというジャンルの幅広さとか可能性を感じられるのはいいな。
私も書くとしたらあくまで"広義のミステリー"を書きたい。

誰が殺したのか考えるのでも、人を殺して自分が疑われないためのトリックを必死に考える、というのではなく、もっと、「なぜこんなことが起こったのか?」「事件を起こした本人は、どんな気持ちで、どんな必要性にかられてそんな行動に走ったのか?」などを追っていく"ミステリー"がいい。

しかもできれば、その行為に走ったのは、利己的な理由ではなく、"誰かのためだった"という、心温まるラストにつなげられたらいい。

今はそんなことを思いながら、ミステリーを分析しつつ読み、自分の小説の可能性を広げるべく、"広義のミステリー"を書いています。

2009年10月23日

雫井脩介「虚貌」


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 犯人は誰か、とか、どういうトリックを使ったのか、というところに重きを置いて読むと「あれ?」という感じがしてしまうけれど、ミステリーだと思わず、エンターテイメントの要素もある純文学として読むと非常に上手く、深い作品だと思う。

 タイトルの通り「貌」って何かと突き詰めていった作品だと考えると、様々な視点からの考察があり非常に興味深い。

 やはり雫井さんは人の描写も上手いし、人の暗い面も含めて非常によく描き出していると思う。
 フィクションを支えるのは結局のところ、人物の"リアリティ"だということを感じる。雫井さんはそういった意味で、本当によく人を観察している。
 あぁ、こういう人、いそうだよね、とすべての人物に対して思える。

 ただ、最後はこれでいいのだろうか、という気もして、手放しで推せない気もするけれど、重みのある一冊を読んだという充実感はあった。

 改めて、ミステリーってなんだろう、と考えるうえでも、勉強になる作品だった。

 

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