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2009年6月 8日

「重力ピエロ」

重力ピエロ (新潮文庫)重力ピエロ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎

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伊坂さんの「重力ピエロ」が映画になり公開されているので、見に行ってきた。
映画を見るのは久しぶり。

映画化されて良い小説というのは、長編ではなくて短編だ、というのが私の持論。
今までに見てよかったのは「幻の光」(原作:宮本輝)と「ジョセと虎と魚たち」(原作:田辺聖子)くらいなので......。
短編小説の場合は、それだけを映像化しても足りないから、あとは監督の想像力で「膨らませる」作業になる。でも、長編の場合は、ほとんど「削る」作業だから。

でも、この映画は見て損はしなかった。
確かに「長編小説」を映画化したため、そぎ落とされた部分もあるけれど、その取捨選択が非常にいい。
さらに、小説にはなかった映像だからこそ効いてくるシーンの挿入もしっかりされていたし、ちょっとした間のとりかた、映像の空気感で、伊坂さんの描き出したかったであろう世界が、きちんと表現されている気がした。

小説では謎解きのほうに重きが置かれていた気がするが、映画では、謎解きの部分は最低限に抑え、あくまで「兄と弟と、家族の話」に焦点を絞っていた。
だから、繊細な映像とテーマが、すっと心に入ってきた感じ。

「兄」と「弟」を演じる役者も良かった。

ただ「映像にするのが不可能だと言われていた作品を映画化」みたいなキャッチフレーズをどこかで見た気がするけれど、伊坂さんの作品はそんな「映像化」が難しいように、私には思えないな。特に「重力ピエロ」は、今までなんて映画になっていなかったの、ってくらいに思う。「オーデュボンの祈り」を映画化する人がいたら、驚くけどね。

それにしても、この映画でも効果的に使われていたが、「はるが二階から落ちてきた」という冒頭の文章は、十年後には、「トンネルをぬけるとそこは雪国だった」くらい有名になって、教科書に載らないだろうか、などと思ったりする。

監督もすごいけれど、やっぱり伊坂さんはすごい!

「ラッシュライフ」もそろそろ公開されるけれど、どんなふうになっているのかな。

2009年6月 7日

山田宗樹「直線の死角」「聖者は海に還る」

直線の死角 (角川文庫)直線の死角 (角川文庫)
山田 宗樹

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聖者は海に還る聖者は海に還る
山田 宗樹

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上記2冊を読みました。

「直線の死角」は、山田さんのデビュー作。
「保険金殺人」というと、非常にありきたりなテーマなのだけれど、ちょっとひねるだけで、新しい切り口になるのだと、学んだ気がする。

ただ、それ以外は、依頼を受けた弁護士が探偵のように事件の真相を探っていくという、類型化した物語。恋愛も絡んでくるけれど、山田さんは普通の"恋愛小説"を書く人じゃないのかもな......と。

正直、あんな完璧に思える作品を書く作家でも、デビュー作から完璧だったわけではないんだなぁ、と、ちょっと安心できた作品でした。

アマゾンでは平均★4つのようなので、こういう作品がいい、という人もいるんだとは思うけれど。


「聖者は海に還る」は、今まで読んだ山田さんの作品のなかではいちばん、「さらり」と読めた作品だった。ひっかかるところなく、先が気になって「一気に読んだ」感じ。

"人は人の心にどれだけ影響を与えられるのか、与えていいものなのか"というテーマにまっすぐ向きあって、書ききった作品だと思う。

一言でまとめると、
「スクールカウンセラーと、一見完璧に思えるカウンセリング手法についての話」

山田さんのどの作品も"先が気になる"エンターテイメントなのだけれど、この作品は特に、先へ先へ読者を促す力を持っている気がした。

ただ、以前、純文学系の作家の人に「一気に読めた、というのがみんな褒め言葉だと思っているようだけれど、それは違う」と言われたことも思い出した。
少し躓きながらも、作者の世界に向き合い、少しずつその世界に足を踏み入れていった作品のほうが、心に残るのかもしれない。

ラストがちょっと中途半端に思えたというのもあり、「黒い春」「天使の代理人」と比べると、「あともう一押し」欲しかった感じ。

ただ、そんなちょっとした物足りなさを感じたり、「よくあるテーマだよね」などと感じてしまうのは、自分自身が長く教育の現場にいて、「教育ってなんだろう」「人は人にどれだけ影響を与えていいのだろう」ということを、ずっと、考え続けてきたからかもしれない。

もしかすると「黒い春」など、私は、「ここまでフィクションにリアリティがあるなんてすごい」と、大絶賛してしまうのだけれど、製薬会社の人などには、「どこがいいの?」と、捉えられたりするのかもしれない。読者の経験によっても、評価って変わるのかもしれないな。

ということで、まだ読んでいない作品はだいぶ少なくなってしまったけれど、読み続けます!

万城目 学「鴨川ホルモー」

鴨川ホルモー (角川文庫)鴨川ホルモー (角川文庫)
万城目 学

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気にはなっているけれど、あとひとつ、その本を手に取るきっかけがない、という本がある。
この本も、そのうちの一つだったのだけれど、会社の人に貸してもらったので、読んでみた。

なんだかすごいタイトルだし、表紙の絵もふざけているし、映画化もされたようだけれど、出回っているそのシーンも奇妙だし......きっと、コミカルではあるけれど、非常に難解な作品なんだろうと思っていたが、読んでみると違った。

「ホルモー」というのは、明らかに架空の「競技」で、その内容も、その競技に関わる人たちも、非常に奇妙なのだけれど、その競技以外は、本当にどこにでもいそうな大学生と、どこにでもありそうな大学生活が描かれていて、意外と普通に読めてしまう。

以前、「学校生活というのは、誰でも経験したことのあるものだから、小説で書いても、新しさを出すのが難しい。だから、学校を舞台にした作品はあまり書かないほうがいい」とアドバイスされたことがあるけれど、この小説の場合は、「ホルモー」があまりに特異だから、その舞台は、非常にありきたりな「大学生活」でなくてはいけなかったのだろう。

文庫のあとがきに「(この本を読んだけれど)鴨川ホルモーってどんな話だったっけ、と言う人はいない」と書かれていた。確かに、そうだろう。
「だって、ホルモーといったら、あの競技でしょ?」「だから、鴨川ホルモーと言ったら、そのホルモーをする学生たちの話に決まってるよね」
と、読んだ人の頭ではすぐにつながる。

でも、この「一度読んだら、タイトルを聞くだけで内容を思い出せる」ほど強烈な作品を作り出せる、というのは、作者の力だ。

「絶対、こんな競技、ないよね?」と思いながらも、自分の大学でも、誰かしらが細々とホルモーをしているのではないかと思えてしまう(まぁ、私の大学は、京都にはないので、その時点で、設定から外れていますが)。
万城目さんの魅力は「うそつき力」だという評論家がいたけれど、上手いネーミング。

うそつき力は、「奇抜なアイディアを思いつく力」と「奇抜なアイディアにリアリティを持たせる力」両方がないと成立しない。

この本を読んで、自分に足りないのは、常識的な世界を打ち壊す発想力だな、と痛感した。

読書好きにも、物書き好きにもお勧めの一冊。

 

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