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2009年4月24日

森沢明夫「津軽百年食堂」

津軽百年食堂津軽百年食堂
森沢 明夫

小学館 2009-02-28
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「海を抱いたビー玉」以来の、森沢さんの小説(エッセイなどは、この1年で数冊出されていたはずですが)。

「読んだあと、1週間は心がほかほかです」と帯に書いてありますが、本当、森沢さんの本は善意に満ちていて、安心して読めます。

私は、単行本は基本的に外に持ち歩かず、夜にちょっとずつ読むだけのため、1冊読み終わるのに、非常に時間が掛かるのですが、夜寝る前のゆったりとリラックスする時間に、ちょっとずつ読み進めるのに、とてもいい本でした。

「ちょっとずつ読もうと思ったけれど、一気に読んでしまった」と言っている人も多いけれど、私は、じっくり、ゆっくり派、ということで。

以前、「THE 純文学」という感じの小説を書く先生に、小説を見てもらっていたことがあるのですが、その先生は「『一気に読めました』というのが、今は、褒め言葉になっているけれど、『一気に読める』というのが決していいとは思えない」と言われていました。
なんとなく、そんな言葉を思い出したりして。

一気に読まなかったため、たくさん張り巡らされているらしい伏線は、いまいち読みきれませんでしたが、「現代」っぽくない、心に余裕のある時間の流れや、人への思いやりなどが、青森という場所と、満開の桜に綺麗に彩られ、せわしなく生きる現代人の私にも、すっと入ってきました。

もともと、森沢さんのことは、ひすいさんの「名言セラピー」を通して知ったのですが、この本の中にも名言セラピー的要素が満載で、そこもまた、ちょっと嬉しくなったり。
初めの100ページ読むだけで、5つくらい名言セラピー的エピソードが見つかったり。
名言セラピーファンには、そういう楽しみ方もあるかも。

森沢さんは、作品も素敵だけれど、それ以上に、人柄が素晴らしいんですよね。こんなタイプの作家もいるのだ、と驚くくらい。
結局、その小説を心地よく読めるかどうかって、技術うんぬんの前に、作家の持っている魂に左右されるんじゃないか、なんて思ったり。
書き手が普段から人や物事のいいところを見ているのか、悪いところを見ているのか、によって、絶対、作品は180度変わってしまうと思うから。

森沢さんの本は、なんかちょっと心が疲れたときなどにお勧めかな。
ポジティブシンキングを強制するのではないのだけれど、プラスの見方をできるように、いつのまにか心が自然と、無理なく、矯正されている、みたいな。

まだ、小説の中で一番美しい桜は、三島由紀夫の「春の雪」の描写だと私は思っているけれど、そういう、どこかゆがんでいて、痛みがあって、切なくて、苦しくて......そんななかだからこそ感じられる刹那的な美しさ、だけではなく、もっとあったかくて、安心できて、まっすぐで、純粋で......だからこその美しさ、も、いいね。
なんて思える自分は、ちょっと成長してきているのかも、などと、ほくそ笑んでみたりして(笑)

2009年4月23日

「天使の代理人」山田宗樹

天使の代理人〈上〉 (幻冬舎文庫)天使の代理人〈上〉 (幻冬舎文庫)
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「嫌われ松子の一生」に続き、山田さんの作品をまた読んでみた。
 やっぱり上手い!
 
 好きな作家というのは、もちろんたくさんいるけれど、大体は「〇〇の部分にちょっと不満はあるけれど、でも、やっぱ、いいいんだよね~」という「好き」。
 でも、山田さんの作品は、文句のつけようがなく「上手い」。
 しかも、その上手さは、数をこなしたあとに身につけた職人的(だからこそ、どこか人工的。たとえば重松清さんとか......)な上手さではなく、個性とか主張とか深さとかそういうものとも、しっかり共存した上手さ。
 去年は、伊坂幸太郎さんに出会い、一目ぼれするかのように、その作品にはまり、1年でほとんどすべての伊坂作品を読んだけれど、今年の一番の出会いはこのまま行くと、山田宗樹さんの作品かもしれない。

「天使の代理人」は、一言で説明すると「中絶」がテーマの話。
 で、基本的には、「中絶反対」の立場で書かれている。
 ただ、独りよがりの、声高な主張なわけではなく、「助産婦として中絶の補助をし続けた罪悪感から、中絶反対の活動を始めた五十歳くらいの独身女性」「医療ミスでせっかく授かった子供を中絶させられてしまった二十代の女性」「迷いなく、あっさりと中絶をした二十歳の学生」「銀行でしっかりとしたキャリアを築いている三十代後半の女性」など、色々な立場、様々な考え方、価値観をもった女性の視点を使い分け、ある意味では、淡々と、論理的にストーリーを展開する。

 その、本当はあるのかもしれない主張の熱さと、感情的にそんな「主張」に流されない計算された物語の構成が、本当に上手い。
 すべての人がきちんと生きていて、リアリティがある。テーマは重く、笑いはないけれど、だからといって希望がないわけではなく、みんな悩みながらも、どこかで間違った選択をしながらも、基本的に心が綺麗だから、救いがあって、読後感はいい。

 この人間の書き方の上手さは、乃南アサさんにも似ている。
 乃南さんも、ミステリー作家ではあるけれど、いわゆるミステリーではなく、なんのトリックも、どんでん返しもなくても、「感情移入」だけで読ませてしまうところがあるけれど、そんな感じ(乃南さんの傑作は、「<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/457550579X/nagi-22/" target="_blank" title="風紋">風紋</a>」。犯罪被害者の家族をひたすら追った話だけれど、主人公が実在の人物に思えてならなかった。読み終わってしばらく経っても、あの子、大丈夫かな、と心配しちゃうくらい)。
 でも、男性が、女性だけ五人ほどの視点で物語を書いて、まったく違和感を生じさせないってすごい。しかもテーマが、中絶、妊娠、出産......と、男性が真正面からとりあげるものとは思えないものだというのが。
 後半、話に入り込んでいたので、あとがきを読んで書いたのが男の人だと思い出し、「うわぁ、そうだった。それって、すごい!」と改めて興奮してみました。

 しばらく追い続けたい作家さんです。

2009年4月 8日

山田宗樹「嫌われ松子の一生」

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山田 宗樹

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映画の予告を見たくらいの情報しかもっていなかったので、周りから疎まれている変わった性格の人が、コミカルに描かれている作品なのだと思っていたが、読んでみたら、全然違った。

一人の女性の一生にまっすぐ、まじめに向き合って書かれた、結構重たい話だった。

でも、シリアスなのに重くなりすぎず、どんどん先にひっぱっていく力は、さすがとしか言いようがない。
久しぶりに、すごくいい本を読んだな、という満足感を得られた。

タイトルこそ「嫌われ松子」だけれど、読んでいると、「松子」に感情移入してしまう。
本当に「ついていない」としか言いようがない人生なのだけれど、それでも、いっときいっとき真剣に生きている松子を、つい応援する気持ちになっていた。

文庫のあとがきでは、松子だけが悪いわけではないけれど、もっと松子が未来のビジョンをしっかり持って生きていれば、こんな結末にはならなかっただろう。でも、誰にでも、こういう転落がありうるということだ、というようなことが書かれていたけれど、作者が伝えたかったテーマは、そんなことじゃないんじゃないかな......と、私は思った。

決して「成功」ではなかった人生だけれど、それでも、そのときそのとき一生懸命に生きて、誰かの心に何か残せばいいんじゃないか、と、私は読んだ。

この、「共感させる力」と、「物語を引っ張っていく力」には、すごく学ぶものがある気がした。
この作品自体はそう「ミステリー」という感じではないけれど、作者が推理小説でデビューしたということを知り、深く納得。

大学卒業くらいから時系列にそって進む松子の視点でのストーリーと、なぜ松子が殺されたのか、松子が死んだと知ったところから辿っていく「甥」の視点でのストーリーの絡ませ方が、本当に上手い。
こういう、視点や時間の流れを計算して、組み込めるようにならないといけないな、と思う。

この人のほかの作品も読んでみたい。

 

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