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2006年11月19日

東野圭吾「手紙」


手紙手紙
東野 圭吾

文藝春秋 2006-10
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映画は今、公開されているのかな。
映画を見ても良かったのだけれど、東野さんの本は好きなので、本の方を選んでみた。山田くんと玉山くんもいいんだけどね。
ストーリーは、弟の学費を手に入れるために思い詰めた兄が強盗に入り、誤ってその家のおばあさんを殺してしまい、そのために弟は社会から差別を受け、苦しむという話。
刑務所に入った兄からは、一ヶ月に一回しか出せないという手紙が、毎月届く。その手紙と、手紙に象徴される兄との関係の扱い方に迷い、苦しみ続ける弟が主人公。
ものすごく分かりやすく、残酷な差別やいやがらせをされるさけでもなく、ただ人に距離を置かれ、常に特別扱いされてしまう主人公の生活の描写は、まったくドラマチックではなく、とてもリアルな重さで迫ってきて、だから読むのが少し苦しくもなったけれど、それが東野さんの力量なのだろうなという気がして。
数ヶ月前に感想を書いた「時生」も良かったけれど、あれはデビューしてすぐくらいの作品だったから、それから何年も経って書いたはずのこの作品は、ますますこなれ、完成されていた。
とても難しくデリケートな問題で、結局答えなどないのだとは思うし、作者もそう認めてはいるのだけれど、「答えはない」というところに安易に逃げたりはせず、作者の考えがきちんと明示されているように読み取れるところが良かった。
救われない話ではあるけれど、最後は少しだけ温かさも感じられた。
これくらいの作品が書ける力が欲しいなぁ~。

2006年11月 8日

野中柊「小春日和」


小春日和小春日和
野中 柊

集英社 2006-03-17
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野中さんの本は久しぶり。一番初めに読んだ「草原の輝き」は結構痛さや切なさを感じ、そのとぎすまされた感じが好きだったのだけれど、それ以降、もっと「ほわん」としたあたたかい小説を書くようになっている気がする。
今回の本も、タップダンスにはまる小学生の双子の姉妹の話で、すごい劇的な起伏があるというより、日常を柔らかい文章で書きつづっている感じ。
最近、「ストーリーで楽しませたい」「キャラクターを見せたい」「テーマを伝えたい」とか、分かりやすい本を読むことが多かったので、「あれ? 文学って何をする物何だったっけ?」などと、この本を読んでいてちょっと考えてしまった。でもきっと、「読んでいるときの心地よい感覚を読者に与えたい」とか、そんな感じのことを野中さんは思って書いているんだろうな、という気がした。
わくわくどきどき先が気になる、という本ではないけれど、ちょっと日常がハードで、心を休めたいなぁ、というときに、たとえばお風呂にもっていって、良い香りのするバスオイルかなにかを入れ、半身浴をしながら読むっていうのもいいのでは、というような感じだった。


 

2006年11月 4日

奥田英朗「ガール」


ガールガール
奥田 英朗

講談社 2006-01-21
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奥田英朗は一番「イン・ザ・プール」が好きで、伊良部先生のシリーズは少しずつトーンダウンしている感じがしてちょっと残念なのだけれど、この作品を読んで、奥田さんの作品全体がトーンダウンしている訳ではないのだ、と安心し、うれしくなった。

この本は30代前半の「微妙な年頃」の女性を主人公にする5つの短編から成っている。「30代前半の女性」と一言でいっても、それぞれタイプは違っていて、独身もいれば既婚もいて、子供がいる人もいる。
ただ共通しているのは、みんな大手の会社に勤め、十何年かのキャリアを持ち、ばりばり働いているところだ。子供がいる人、にしても、旦那とは別れてしまったシングルマザーだし、唯一既婚の第一話の主人公にしても、仕事を優先するため、子供は作っていない。......つまりどの生き方も、ここ10年くらいでメジャーになってきた女の生き方、なのかもしれない。
角田光代さんの「対岸の彼女」とは違って、子供を産んで専業主婦になっているような女性は出てこない。「30代OLの話」とするとまとまってしまうかもしれない感じ。

私はこの本の主人公たちとは大分違うところで生きているけれど、子育てに専念する専業主婦でもないので、彼女たち以上に微妙なところにいるかもしれない。
ただ本当、この作品は男の人が書いたとは思えないほど、女性のその「微妙」な立場を描き出していて、上手いなぁと感じた。普通の男だったら書けない。女だったら書けるかもしれない。でも、女には書いて欲しくないような気もする、そんな本だった。
一つの話のなか、独身で会社勤めの主人公が、同窓会で子育て真っ最中の専業主婦に会っていう言葉が印象的だった。そしてそのあとの一言のまとめ。
「女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと思えてくる」
この本の登場人物と同じ世代の女性として時々感じている閉塞感は、この一言に尽きるのかもしれないなぁ、と奥田さんに拍手したくなった。よくぞ言い当てた!(笑)

全員、いろいろなことで悩みながらも、短編の最後はすがすがしく終わる。だから安心して読めた。
ちょっと強引にハッピーエンドにしたというのもなくはなかったけれど、一人一人の一生懸命さに声援を送りたくなり、彼女たちに光(解決にいたる道、考え方)が見えたことを一緒に祝いたくなった。
私もまだまだ微妙な「ガール」なのだけれど(笑)、29の後半や30の前半に感じていたような焦燥感はなくなったし、年相応に仕事のできる(仕事というのは、外の仕事だけじゃなく、家の中の仕事も含めてね)かっこいい「女性」を目指していこう、と思います。

同世代の人には、ちょっと耳の痛い話もあるかもしれないけれど、自分の人生を改めて考えさせられたりもして、いいかもしれない。
男の人にも、「女の世界ってこうなんだ」と知ってもらうために、読んでもらいたいな、なんて思います。

2006年11月 1日

よしもとばなな「イルカ」

イルカイルカ
よしもと ばなな

文藝春秋 2006-03-20
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「イルカ」を読みました。
むかしはかなり、ばななさんのファンで、ほとんど全部の本を読んでいたのだけれど、ここ5年ほど、思いついたときにしか読まなくなってしまった。
なんかすごい「思想」を感じるようになってしまったからかなぁ。文章は相変わらず、柔らかく、読みやすい文体で、ストーリーも登場人物もばななさんらしさを失っていないのだけれど、でもところどころに、「結局人間とは××なのだ」という感じの断定的な言葉が混ざっていて、それが少し窮屈に感じられたりする。
でも、そういうふうに、小説を通して人に(特に若い世代に)メッセージを伝えていくというのが今、ばななさんがしたいと思っていることなのだろうし、それを受け止めて、ファンを続けている人も多いのだから、それでいいのかもしれない。

ただ、私の気持ちはだいぶ離れてきているかもしれないな。
きっかけは小説ではなくて、エッセイでだった気がするけれど。はたから見たら、かなり恵まれた生活をしているように見えるのに、常に何かにたいして不満を抱き続けているようなところが感じられて、ちょっと不快に感じられたりした。
金銭的なトラブルも大きいみたいなのだけれど、「お金があると大変なのよ」とか(まぁ、ストレートにそう書いている訳じゃないけど)苦労を嘆くなら、恵まれない人に寄付とかしちゃって身軽になっちゃえばいいのになぁ、などと「庶民」は思ってしまう(笑)

でも、アマゾンのサイトを見ると、評価は高いみたいだし、受け止め方は人それぞれなんだろうな。
確かに「妊娠する」ってこんな感覚なのね、というのは、よく伝わってきたし、この本の時点ですでに、「母親」になって変わったのね、ということが分かったから、次は「子育て」を通して、またどう作品が、そしてばななさん自身が変わっていくかは見守ってみたい、と思う。

 

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