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2006年9月25日

「その日のまえに」重松清


その日のまえにその日のまえに
重松 清

文藝春秋 2005-08-05
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久しぶりに重松清を読んだ。最近1週間に1冊読めるくらいのペースになってきて、なかなかいい感じ。ま、それだけ暇にしているということか......(^^;)

重松さんは、やっぱり上手い。短編をこれだけ正確にまとめあげる力を持つ作家って、あんまりいないのではないかという気がする。
この本には、人の「死」をテーマにする7つの短編が入っている。初めの方はそれぞれバラバラの完結した作品なのだけれど、最後の3つは「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」と同じ登場人物たちの続き物で、さらにそこには前半の4つの作品に出てきた他の登場人物たちがちょっと現れたりする。......という作りになっている。
はじめの2つは「死」といっても、ちょっと距離のある死を扱っていて、そこまで感情に訴えてくる感じではなく、ただ「緻密に計算されて組み立てられているなぁ」といううまさを感じる。でも、あとの方になるにつれて、どんどん「身近な人の死」になってきて、電車の中などでは目が潤んで読めない感じだった。

一番好きなのは表題作の「その日のまえに」。
「その日」「その日のあとで」もあってもいいのだけれど、「その日のまえ」で話を終わらせてしまっても完成度が高くて良かった気がする。
妻の死を宣告された夫婦が、結婚してすぐに住んでいた町を訪れ、その頃の貧しかったけれど実は幸せだった頃を振り返る、という話。
できすぎているとも思うのだけれど、重松さんの描き方は細部が上手くて、旨に迫ってくるんだよなぁ。
悲しい気持ちにはなるけれど、今自分のそばにあるささやかな幸せ、今自分の側にいる人の大切さを改めて考えることができるから、こういう作品はたまに読むのはいいな、と思う。
「当たり前」と思っていても、すべてのものには終わりはあるから、もっと一瞬一瞬を大切にしないといけない......という、まぁ、ありきたりなメッセージではあるのだけれど。

ただでも、重松さんの作品を読んでよく感じるのは、小説は技術だけじゃないんだな、ということ。
重松さんの作品はあまりにも緻密に組み立てられすぎてしまって、逆に感情移入を疎外している部分があるように時々思えてしまう。「上手い作家」とは想うけれど、「好きな作家」には入れない理由がそのあたりにある気がする。
そしてそういうところを突き詰めて考えていくと、そこまで上手いものは書けない自分の活路が見いだせそうな気がしたりはする(笑)

 

2006年9月22日

横山秀夫「出口のない海」


出口のない海出口のない海
横山 秀夫

講談社 2006-07-12
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最近映画も公開になったようだけれど、私はとりあえず本で。
映画もちょっと気になるのだけれど、市川海老蔵はなんとなく見たくないのよねぇ......ってことで。

最近、戦争の話、特にこういう特攻系のものが増えている気がするのは気のせいだろうか。私は観なかったけれど、このあいだ、「僕たちの戦争」もドラマになっていたようし(現代のフリーターが突然戦時中の特攻隊と入れ替わってしまうみたいな話だと思う)、今月で終わるNHKの朝のドラマ「きらり」も戦時中の話だった。
きっと、「不況だ、高齢化だ、大変だ!とか言っているけれど、戦争中に比べたら、ずっと恵まれているんだから、感謝して生きなさい」というようなメッセージなのだろう(笑)

この本は、やはり時代背景が違うのもあり、今までの横山作品とは違ったものの印象を受けた。ただ、途中、先が気になって結構な勢いで読めたし、そういうエンターテイメント的な書き方は横山さんの力だなぁという気がする。
でも、そういうタッチで、この題材を書くのが良いのか悪いのかは、個人個人の受け止め方かもしれない。「戦争の重い話なのに、そこまで深刻になりすぎず、今の感覚を大切にして書かれていて、楽しんで読むことができた」と言うこともできるし、「せっかくこれだけの重い題材と向き合うことを選んだのだから、中途半端な向き合い方にはせずに、もっとテーマを掘り下げて欲しかった」とも言える。どちらも正直な感想。

私が残念だと思ったのは(他の人はそう感じないかもしれないけれど)、大事な場面で視点が他の人物に移り、上手く感情移入できなかったこと。たしかに最後に死ぬ人の一人称で小説を進めるのは難しいとは思うのだけれど、一つの場面で視点が他の人に移ると、読んでいて混乱するし、混乱すると気持ちが冷めてしまう気がする。もっと主人公の「並木」の目と心に集中させて欲しかったな、という気がする。
あと、脇に何人も魅力的な人物が登場するのだけれど、それが「何人も」であるために、焦点がぶれてしまった気もする。個人的な好みとしては、もう少し主要人物を絞って、主人公との対比などを出した方がおもしろかったかな、という気がした。

でも、最後のあたりで並木がなぜ回天に乗って死のうと思っているのかを語るその言葉と、ラストは、軽く読者の読みを裏切ってくれて良かったと思う。

戦時中でもみんながみんな「お国のために死ぬのは怖くない」などと思っていたわけではない、ということが、最近の戦争物にはよく書かれるようになってきたように思う。
でも、こういう時代、「国のために死のう」と思えた人間の方が楽に生きられただろうな、という気はする。そして、そういう思想は恐ろしいとは分かっていても、一つの絶対的な価値観がある世の中というのは、ある意味で生きやすくて羨ましいなどと不謹慎なことも思ってしまったりする。
それってただ私が「自由」をもてあまし気味だと言うことで、ものすごく贅沢な意見なのだけれどね。

ま、そんなことを色々考えられたと言うことは、良い作品だったということなのかもしれない。

2006年9月14日

「ユナイテッド93」


ユナイテッド93 [DVD]ユナイテッド93 [DVD]
ジョン・パウエル

ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン 2006-11-30
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昨日は映画、「ユナイテッド93」を見た。
9.11のとき、国防省を狙ったけれど、近くで墜落した飛行機に関する半分ドキュメンタリーみたいな作品。
なにをやっても結局助からないことは分かっているので、見ていてやるせなく、最後は悲しかったけれど、作品としては良かった。シリアスなテーマを扱いながらも、きちんと見る人を飽きさせないテンポの良さを計算して作り出しているところに、アメリカ映画らしさや、アメリカ映画の「誇り」みたいなもを感じたりした。
事件そのものもなかなか興味深かったけれど、それ以上に、管制塔の仕事がこんなものなのだということが初めてわかり、おもしろかった。
普段のニュースなどだと、「こんなミスがあった」「こんな失敗があった」ということしか取り上げられないけれど、そうやって取り上げられないところで人はいつもコツコツと働き、他の人が想像しないような仕事をし、世の中を支えているのだろうな。
そういう世の中のいい面をもっと全面に押し出すような作品が増えていくといいとも思う。

空にいっぺんにあんなにたくさんの飛行機が飛んでいるのかということに驚き、その飛行機の運航状況を陸ではあまり把握できていないのだということにもかなりびっくりなのだけれど、それでも機敏に「進路を変えろ」と連絡を取る人がいたり、「アメリカの上空は全面封鎖だ」とものすごい大きな規模のことをすごい早さで決断する人がいたり......そういうのは良かった。
乗客達も最終的には救われなかったけれど、みんなで力を合わせて、どうにか飛行機を取り戻そうとする過程が、感動だった。乗客はみんな死んでしまったけれど、目標をそれたことで助かった命はたくさんあったはずで、そのことには喜ばないといけないのかもしれない。
監督はこの映画をつくるにあたって、乗客の遺族全員の協力を得て、事故当時のことを再現したという話だった。その徹底ぶり、監督の事実を伝えたい、遺族のためにもこの作品を作りたいという思いが、やっぱ素晴らしい。いい作品を作れるかは、伝えたいという思いの強さにかかっている気がする。
決して幸せな気分を感じられる映画ではなかったけれど、いい意味で余韻はあった。犯行グループを分かりやすい悪としては描かず、人間らしさを感じさせていたところも、良かった。
悪い人と良い人がいるわけではない、状況によって悪い人になったり良い人になったりするだけだ、とかいう漱石の言葉を思い出したりもする。

私もちょっとずつまた小説を書き始めたいなと思うところ。人の心になにか届けられるような作品が作り出せたらいいな。
でも最近は小説を書くことを優先して、あせってたくさん作品を作るより、まずは様々なことを経験し、学び、感じ、それをゆっくり形にしていくのもいいかもしれない、などと思い始めている。

2006年9月 8日

東野圭吾「時生」


時生時生
東野 圭吾

講談社 2005-08-12
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2ヶ月ほど前に買ったと書いた小説。
ようやく今日、読み終わりました。一冊の本にこんなに時間がかかるのは随分久しぶり。いまだに少し、小説を読んでいると、もっと実用書を読んだり、勉強をしたりした方がいいのでは、なんて気持ちになってしまうし。でも、こうやってのんびり小説を読んだりできるのは、「自由」ってことなのかもなぁ。

東野さんの作品は、「容疑者Xの献身」に続き2冊目。作品全体の出来としては、「容疑者Xの献身」の方が完成度が高かった気がする。トリックや謎に最後にかなり驚くことができたし、「プロ」としての安定した筆力を感じた。
それに比べると「時生」の方は、ミステリーとしてはお粗末な部分も多かった気が。脇役のキャラがどこか他の作品から持ってきたような、ステレオタイプなものだったり、会話や立ち回りもところどころ陳腐に思えた。でも、もしかしたらそれは全部作者の計算なのかもしれない、とも思った。どこか作り物めいた世界を意図的に作っているのかもしれない。

そして、ミステリー以外の、テーマとか主要な人物の心の動き、人と人との関係という部分では、「時生」はとても良かった。「容疑者X」も感動する話だったけれど、それ以上に、かなり心に迫ってくるものがあった。テーマが、普遍的なものだからかもしれない。親子の関係、人を許すということ、自分の人生に自分で責任を持つということ......大事なテーマが説教くさくなりすぎることなく、さわやかな「トキオ」青年の口から語られるのが良かった。
この小説のなかの関係は、現実にはありえないものだけれど、現実でも、子供が親に支えられ、親から色々教わるのと同時に、親が子供に支えられ、子供に教えられることは必ずあるのだろうという気がした。東野さんが最後に一番言いたかったことがそういうことだったのかは分からないけれど。

とにかく、ちょっと悲しくはあるのだけれど、心が温かくなり、子供を持つのもいいな、と思わせてくれる作品だった。
そして、私が良いと思ったのはそういうテーマの部分だったけれど、それだからこそ、大切なテーマや大切なシーンを書くために、ミステリーなりエンターテイメント的な要素を入れることも大切なのかな、ということも考えさせられた。

 

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