凪~小説・写真サイト~                    
  作品   レビュー   写真   日記   プロフィール
                     


2006年3月28日

絲山 秋子「沖で待つ」


沖で待つ (文春文庫)沖で待つ (文春文庫)

文藝春秋 2009-02
売り上げランキング : 21663
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

最近ちょっと小説を読む余裕がなく(気持ちの、かな)、なんだか久しぶりに読んだ。
さらりと読めるし、淡々としているけれど、必要なことは伝わってきて、やはり上手いな、という気がする。
「同期との絆について」という説明だけ知っていたけれど、想像していた以上にあっさりした書き方で、でも想像していた以上に好感を持てる素敵な関係だった。
私はどうも主人公の心情を事細かにかきすぎて鬱陶しく感じさせてしまうタイプのようで、今はその心情を削ることに専念しているけれど、今習っている先生いわく、削るだけじゃなくて、語り口に工夫をしてその心情吐露を「読ませる」方法もあるということ。絲山さんのこの書き方も「読ませる」書き方なのかな。でもやっぱり、全体的に心情吐露を抑えているのかもしれない。
事実の描写と心情の描写のバランス、今はそれを一番学びたいな。

ということで、上手いな、と思えた本でした。
本当にさらりと読めてしまう短さなので是非どうぞ。

2006年3月23日

「東京タワー」リリー・フランキー


東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

扶桑社 2005-06-28
売り上げランキング : 13293
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 予想以上に良かった。素晴らしい! この本がベストセラーになるなら、日本の出版業界はまだまだ大丈夫だという気がする。
 一言でいうと愛があふれていた。だから最後の方は、うるうるどころじゃなく、号泣した。途中までは電車の中などで読んでいたけれど、さすがに最後の方は家にこもって読んだ。
 これはただのリリーさんの母親の思い出ではなくて、こんなふうに生きた人がいるという確かな記録だと思った。大変なことはたくさんあっただろうし、リリーさんが、「子供の目から見ても小さな人生に見えた」と書いているように、すごいことを達成した人生ではなかったかもしれない。でも、子供のことだけ考えて生き、多くの人に慕われたというその人生は十分に語る価値のある、幸せなものだったのではないか、という気がした。

 ということで、文句なく良いものに対してそんなに多く語る言葉はない。ただ、まだ読んでいなかったら読んでみてください、というだけ。

 ただこの作品はやっぱりノンフィクションだから心に迫るのであって、これもきっと
誰でも人生に一作は名作を書くことができる」というその一冊ではあるのだろう、という気がする。こういうレベルの作品を何作も書くなんてできることじゃない。
 でも、内容=ソフト、文章の技術=ハードと2つのものから作品ができていると考えたとき、そのソフトは一生に一つというものだろうけれど、その良さが生きたのは、それまでに磨いてきたこの文章の力があったからこそだろうという気がした。さらりと読めるけれど、この文章のうまさはかなりすごいと思う。大部分はふざけたことをしているふざけた人間についておもしろおかしく書いているのだけれど、それがちゃんと読んでいてもおもしろいし、ところどころにはさまる洞察や描写はしっかりと心に刻まれる、存在感のある文章になっている。上手い文章って、決してまじめくさって文学的表現をちりばめたものではなくて、こういう文章のことだろうなという気がした。
 私はまだ「人生に一作は」の一作になりそうな経験を持っていない気がする。でも、作家がすべきことは、その「人生の一作」の鉱脈を捕まえたとき、それを最高の力で書ききれるように、それまで力を養っていくことなのかもしれない、と今回、思った。

 とにかくリリーさん、ありがとう。こんな作品を読ませてくれて、ありがとう。
 という気持ちだった。
 この本の中で、お母さんが入院したときに本を読んでいる場面がある。病気と治療の痛みと闘っているお母さんを支えた本は、柳美里の「命」とあいだみつおの本だった、と。あいだみつおは分かるけれど、柳美里は読んで元気になるのだ......とちょっとびっくり。でも、そういう状況の人にはそうなのかもしれない。
 その場面でリリーさんが書いている。自分にはそんなふうに今、母親を元気にできる本は書けていない。でも、そういう本を書いてくれた人に、ありがとうと言いたい、と。
 ものを書く人間にとって、そういう気持ちは大切なものなのだろうなと思い、印象に残った。

2006年3月 9日

「クラッシュ」


クラッシュ [DVD]クラッシュ [DVD]

東宝 2006-07-28
売り上げランキング : 4059
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 アカデミー賞の主要三部門受賞ということで、ついつい見に行ってしまった。どちらかというと「ブロークバック・マウンテン」の方に惹かれていたのだけれど、まだ渋谷の一館でしかやっていないみたいなので、数週間待ってみます。

 感想は、なかなかバランス感覚に優れているなぁ、という一言かな。重いテーマを扱っているのに、見終わった感じも爽やかだし、かといってすべてを無理矢理ハッピーエンドにしてしまわないリアルさが残り、拍手!だった。
 テーマは人種差別についてで、アメリカ社会で、黒人やアジアの様々な人が白人から迫害を受け、つらい思いをしているというような内容(その一方で、黒人は白人に復讐をくわだたてり、もっと弱い人種を痛めつけようとしたりするのだけれど)。それを複数の人物の視点から描いている。一言で黒人といっても、そのために社会からドロップアウトしてしまったような人もいれば、白人と対等にキャリアを築いている人もいる。外国人を差別する白人がいると思えば、もっと広い心で接する白人もいる。
 初めはちょっと差別の描き方が、やりすぎでは......とも感じたけれど、それは日本に住む日本人だから思うことかもしれない。それがやりすぎかどうかはアメリカに住まないと多分分からない。
 それ以外では、誰に肩入れしすぎることもなく、ただ人種にかかわらずみんないいところも悪いところもある「人間」なのだという視点がしっかりとあり、好感が持てた。重いテーマなのに、暗くなりすぎない描き方は上手いなぁと思ったし、やはりラストが私は良かったと思う。
 様々な視点人物すべてがいっぺんにハッピーになってしまったら、それはいかにも作り物なのだけれど、良いことも起これば悪いことも起こる。状況が変わらない人もいる。それをしっかり見せながら、それでも見る人を爽やかで救われた感じに持って行けるというのは才能だ。才能と言うより、バランス感覚、センス、という感じかもしれないけれど。初めは良い:1 悪い:9 くらいだったものが、ラストは良い 5.5 悪い 4.5くらいの比率になり、それで救われた感じがする。でも、問題はまだ残っている。本当、この終わらせ方は勉強になった気がする。結局日本の安易なエンタメみたいなまとめかたをしちゃうと、すがすがしさは残るけれど、「あぁ、おもしろかったね」で、心になにも残らなくなってしまう。でも逆に「ミュンヘン」みたいにすると(よほど強烈なインパクトはあったらしい......最近しばしば「ミュンヘン」と色々な作品の読後感?を比べてしまう(笑))、テーマは心に刻まれるけれど、気分が暗くなりすぎる。......そのバランスが大切だとこの頃、けっこう考える。

 BBSには書いたのだけれど、最近、地方の賞の最終で落ちた。でもそのときの選考委員の藤沢周さんの言葉が良かった。
「最終候補に残った作品はいずれも文章が達者であったが、人生の内実に筆致が迫り始めるというとき、簡単に登場人物を救って、物語をまとめる傾向が散見された。これでは現実をナメているといわれてもいわても仕方ない。そして、小説をナメているとも。まずは残酷なほどクールに自己を見つめるという視線が必要であると思う。またそれこそがリアルというもの謂いである」
うわぁ、分かる!って気がした。
最近の私のテーマは、この「ラストのバランス」。
そういう意味では、とても勉強になる映画でした。

......という個人的なことを置いておいても、やはりアカデミー賞とるだけあるな、という作品だった。
ただ残念だったのは、あまりにもバランスが上手くできすぎていて、やはりインパクトにはちょっと欠けたかな、というあたりかな。


 でもアメリカ社会も大変だなぁ。ああいう状況でだったら、人を疑って生きるしかないような気がする。最近の日本もちょっとずつそうなっていてそれは悲しい。
 新聞におじいさんが投稿していた。子供が落とし物をしたから声をかけたら逃げられた、と。
 人を疑えと子供に教育しないといけない社会って、本当に悲しいと思う。

 

Top ・ Works ・ Photos ・ Diary ・ Profile