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2006年1月19日

「I LOVE YOU」


I LOVE YOU (祥伝社文庫)I LOVE YOU (祥伝社文庫)

祥伝社 2007-09-01
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 伊坂幸太郎さん、石田衣良さん、市川拓司さん、中田永一さん、中村航さん、本多孝好さん、六人の恋愛小説を集めた短編集。
 なかなか贅沢な顔合わせで、以前から気になっていましたが、ようやく読めました。読み始めたら一気に読めた。どれが好きかは人それぞれかもしれないけれど、それぞれなかなかいい味が出ています!

 でもやっぱり上手いなぁと心から感心したのは、本多さんの作品。素敵!
 他の作品はどこか作られた幸せという感じで、少年マンガの絵が浮かんでしまいそうだったけれど(特に石田さんの作品とか。ああいうのが好きな人もいるんだろうけれど、私はどうも石田さんの作品の良い読者ではないようだ)、本多さんの作品はとてもリアルだった。リアルであるだけ、心に迫ってきて、少しつらい気持ちになったり、応援したくなったりした。まぁ、小説になりやすいのは、幸せなときではなく、つらいとき。恋愛の初めより、終わりだというだけなのかもしれないけれどね。
 あとは、中村さんの作品は初めて読んだ。名前は聞いていたけれど、読んだのは初めて。なので、普段どういう作品を書いているのかは分からないが、これはなかなかパワーがあって良かったかも。金城さん(「GO」とか「Fly,Daddy,Fly」とか書いた人)っぽい世界だった。あぁ、男の青春ねぇ、って感じだけれど、女でも問題なく読める。ちょっぴり女の書き方にリアリティがないといえばないが。
 それから伊坂さんも「秘密」(これも短編集)で読んで、二度目。嫌いじゃないなと思う。ただ、括弧のつかいすぎが少しうるさく感じられてしまった。そこが気にならない人には、適度にユーモアがあっていいと思う。
 石田さんの作品は作り物っぽかった。でもおもしろくは読める。分かりやすいしね。一カ所夕焼けを説明するのに、「ファンタ・オレンジほど深くはないが、バヤリースよりも濃いくらい」と書いているのがちょっと素敵に思えた。文学者とかに言わせたら、こういうことを書くから現代の小説は薄くなるんだとか言いそうだけれど、私はこういう今っぽい軽やかな表現は好き。
 市川さんの作品は市川さんっぽいなぁとも思ったけれど、その分、新たに練られた感じではなく、いつもの感じすぎてちょっと新鮮味が薄れてきたというのもあるかも。でも嫌いではない。でもなんで市川さんはいつも見た目があまり整っていない人とか、もてないタイプの人間を養護するようなものを書くのだろう......と気になりはする。
 中田さんは名前を聞いたのも初めて。でも、結構おもしろかった。これもまたマンガっぽいのだけれど、ところどころ結構リアルで分かり、そこがちょっと痛かったりした。

 と、あまり参考にもならないことをだらだら書いてしまったけれど......個人的には結構好きな本。そして本多さんの作品がやっぱり一番だ!!ってことだけ書いて、とりあえず締めます。
 恋愛をしたくなるような、過去の恋愛の痛みをちょっと思い出すような、そんな一冊でした。人を思う気持ちって、時に美しく、時に残酷だなぁと、ありふれた感想なども抱いたりして。

2006年1月17日

三崎亜記 「となり町戦争」


となり町戦争 (集英社文庫)となり町戦争 (集英社文庫)

集英社 2006-12
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 2004年の小説すばる受賞作。
 なかなかおもしろかった。よくこういう作品を思いついたなぁという感じ。自分の住んでいる町ととなりの町の間で知らない間に戦争が始まり(町の広報誌の片隅に戦争が始まると書いてあるというところから、静かに物語は始まる)、実感がわかないままに巻き込まれ、人が死に、そしてよく分からないまま戦争が終わる。小説すばるはエンターテイメントの賞のはずだけれど、とりたててドラマチックに描き出そうという感じでもなく、淡々と戦争が起こっている感じが、逆にリアル。あぁ、今の、戦争を知らない世代にとっての戦争ってこういう感じだよなぁ、と納得する。
 私はまだゲーム世代っていうような世代でもないけれど(でも小学校の低学年の頃ファミコンが出た世代)、でも現実感が希薄だということは時々思う。もっと上の世代にとっては、現実ってもう少し確かな手触りのあるものなんじゃないだろうか、と。
 そういう、なんとなく「希薄」だという感覚だけはある私たちの世代(まぁ三崎さんは私より五歳年上らしいが)には、結構「分かる」話だった。
 三崎さんは「役人」らしいが、役人仕事のおかしさも婉曲的に批判しているようでもあり、でも、私たちの感覚の希薄さと同じくらい、そういう仕事に対しても、「まぁ、しかたないのかも」という視点を持って書いている感じがする。結構重いテーマを扱っているようでいて、結局この話を覆っているのは、あきらめの感覚。
 視点とか設定とか、変にドラマチックにしないで抑えた感じに物語を進めるところには力を感じた。
 ただ、書きたいテーマを作者の言葉で書きすぎているところが気になった。もっと作者の意見は抑えた方が、読者に、不気味さや問題を感じさせることができるのに、と。そこは惜しい。
 でも静かに心に残る作品ではあったと思う。しばらくしたらまた読み直したくなるかもしれない。

2006年1月11日

オラファー・エリアソン「影の光」

久しぶりに美術館に行きました。
品川の原美術館で3月15日まで開催しているインスタレーション。

大袈裟な言葉に聞こえるかもしれませんが、いやぁ、本当、久しぶりに本当の「美」に出会った感じがしました。
言葉を超越しています。
見ているととても穏やかな気持ちになった。お寺の境内にじっと座っているときの気持ちに似ている。静かに自分の内側を見つめられる空間があった。そして目の前に繰り広げられる光景(というか、光と影の揺らめき)は、美しい数式のように完成された、完璧な軌道を描いたり、この世のものとは思えない不思議な世界を感じさせたりしてくれた。
ここに今生きているということを忘れてしまいそうなほど、非日常の空間があった。

別に今、死にたいと思っているわけではないけれど、自分が死ぬときはこれくらい穏やかな気持ちで、まず生にも死にも属さない場所でしばらくじっと留まり、そしてあの世に逝くのだろうなぁなどということを感じたりした。
本当、良かったです。

ただ、一体、その展示って、どんなものなの?と聞かれると説明できない......。
ので、写真で作品を見られるサイトにリンク。
http://www.enjoytokyo.jp/OD004Detail.html?EVENT_ID=27273
原美術館の公式サイトの方がきれいですが、フラッシュを使っているので、目的にたどり着くまでがちょっと面倒です。
http://www.haramuseum.or.jp/generalTop.html
でも良ければ、ここのサイトの「EXHIBITION」を観てください。

リング状のプリズムを使って、光を虹色にし、その動きを見せるというような展示と、霧に光を当て幻のような柔らかい虹を見せるという展示が綺麗だった。
でも考えてみれば、それはただ普段身近にある光を分解して見せているに過ぎない。非日常に感じられるけれど、光も様々な色も日常にあふれかえっている。溢れすぎていて気づかない。
色だけではなくて、世の中には当たり前すぎて目を向けないために「非日常」になってしまっているものが、今はとても多いのかもしれない。例えば体の器官の働きとか、物質は原子とか分子でできているということとか、地球は回っているとか、光や音は波であるとか、実感としてとらえられない「事実」は多い。
別にそんなことをいちいち考えていたら日常に差し障るから、考える必要はないと思うのだけれど、でも、今回、この不思議な展示を見ながら、実感できないそういう非日常に感じられる様々な「事実」を知識として持ててているのはいいことかもしれないな、なんていうことを思った。
現実世界で行き詰まったとき、白い光の中には本当は七色(本当はもっとたくさん?)の色が隠れているんだとか、物質は全部ただの分子と原子なんだとか、そういう、普段とは全然違う視点をふっと持てるようになれば、気休めであってもちょっと楽になる気がするから。

って......何がいいたいかよく分からなくなってしまったけれど、とにかく、本当に良かったです! 静かに美しいものと向き合いたい方、もしお近くに住んでいたら、是非、行ってみて下さい。

2006年1月 8日

市川拓司 「世界中が雨だったら」


世界中が雨だったら (新潮文庫)世界中が雨だったら (新潮文庫)

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「恋愛写真」「いま会いにいきます」と二冊読んで、なんて才能のある人なんだろうと思った。なんといっても文体が独特ですばらしい。ちょっとふざけているようでいて温かみがあって、世界に引き込まれてしまう。そして中身がまた、文体にあっている。不器用だけれど、一生懸命な男と女の精一杯の恋愛。あぁ、恋愛ってドキドキしたりおしゃれな気持ちになったりするものじゃなくて、もっとほっとしたり、心のそこから満たされたり、そんなものなんだなって、市川さんの本を読むと思うことができる(いや、実際、そうなんだけれど、得てして本や映画の中の恋愛はそういうものじゃないことが多くて、人はもっと刺激のある恋愛を意味もなく求める傾向にあったりする)。

 ただ、以前読んだ二作に比べると今回の本は、あれ......という感じだった。長編かと思っていたら、中身は短編が三作。一作目は市川さんらしい文体や表現があって、やっぱりうまいなぁと感じさせるのだけれど、他の二作は結構誰にでも書けそうな文章だったし、内容が暗くて結構救いがない。エンターテイメントに必ずしも殺人は必要ないだろうって言いたくなるような感じだった。
 結構、売れっ子になると、どんどん書いてくれと言われて、内容が浅くなって、つまらなくなってしまう作家が多いような気がするのだけれど、市川さんもそうなのかなぁ......と、ちょっと残念に感じた。
 ただどうやら、二作目と三作目は、「いま、会いにいきます」のずっと前に書いたものらしく、それは、ほっとする。あぁ、なんだ、下手になってしまったんじゃなくて、まだ上手くなっていなかった、というだけなのだ、と。
 でもそういう昔の作品まで出してきて、とにかく話題になっているうちに売ろう!という感じの本の出し方は感心できないけれどね......。

 ということで、市川さんの本を読んだことのない人には、他の本から読んでください!といいたくなるような内容でしたが、一作目だけは、結構良かった。市川さんは、特に比喩が独特で上手い!
 たとえば、ただ会話がぎこちなかったというだけのシーンを、「荷箱をツメ草で満たすように、ぼくはただ沈黙を埋めるためだけに、ひたすら言葉を吐き続けた」と描写したり、自分のしていることが自分でよく分からなくなってきたということを説明するために、「なんだか自分の人生そのものを不安定な足場の上でジャグリングしているような感覚があった」と言う。
 そのほかにも、よくそんなに関係なさそうなものを上手く関連付けて、あぁ、なんとなく分かるという描写にしてしまう。
 キスとかHのときの描写もいい。結構具体的にしていることを想像できるのだけれど、市川さんの文章で書かれると、それは全然いやらしいことには感じられずに、夢のある優しい行為のように受け止められる。
 市川さんは以前インタビューか何かで、新聞で本の広告を見て買うことがある、特に専門書をよく買う。と言っていたけれど、結構知識も幅広くて、それも市川さんの世界を支えているのかもしれない。
 今回の本は正直ちょっと......でしたが、次の作品もまた期待したいな、と思っています。というか、以前の本も読んでいきたいな。
 結構下手にベストセラーになると、そんなのを手に取るのはミーハーなんじゃという感じがして、普段から本を読む人からは敬遠されることも多い気がするけれど、一冊も読んだことがないのなら、ぜひ一度ぐらい読んでみてください! 好き嫌いはあるかもしれないけれど、結構はまるひとははまると思うので。

 

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