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2009年5月20日

山田 宗樹 『黒い春』

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山田 宗樹

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すっかり山田宗樹さんにはまっています。
読めば読むほど、すごいです。

この話は、健康だった人が、突然咳き込み、黒い粉を吐いて死ぬという病気が日本で発生し、その病気の原因と治療法を求め闘う男たちの話。

すっごく簡単に言うと、それがあらすじ。

でも、そこには、上記のあらすじから想像される「プロジェクトX」みたいな部分もあるのだけれど、それぞれの男たちの家族や大切な人との絆があり、生と死への思いがあり、こういう事態に陥ったときに弱い官僚や国の制度への批判があり、人間と病という古くから続けられてきた歴史あり、さらに歴史ミステリーもあり......と、一言では言い尽くせないテーマや内容が詰め込まれている。

ただそれが、「テーマを詰め込みすぎて、焦点がぼやけてしまった」というようには決してならず、すべてが地層のように積み重なって、一つの、非常に重たいリアリティのある世界を作り出している。

山田さんの作品を最近続けて読んでいて、小説というのは今まで、ある点から先にある点への一直線の動き(ストーリー)だと思っていたけれど、それだけじゃないな、と思った。
山田さんの作品は、ある点から始まり、そこから水紋のように輪になって水平方向に広がっていき、さらに水中深くへも広がっていくものである気がする。
どこかに行き着くわけではない。
でも、その広がりを見つめることで、その一つの出来事やテーマについて、自分ならどう考えるか、という問いを投げつけられる。
答えは与えられていない。
作者の主張はあるようで、声高には伝えられていない。
「こういう、深さと広さのある問題がある。さぁ、あなたはどうする? どう思う?」
最後はそこで終わっている気がする。

前に読んだ二作以上に重く、やりきれない話ではあったけれど、非常に質の高い作品だった。
最後のほうは涙が抑えられなかった。

でも、この小説を読み始めたときに豚インフルエンザが発生したので、かなり怯えてしまった(汗)

ただ、この小説の黒い粉を吐いて死ぬ病気は、ものすごい勢いで広がりそうで、初めの年、1年で21人しか感染しない。
こういう「怖い病気もの」は、ものすごい勢いで広がって、人がばたばた死んでいく恐怖を描くものだという先入観があったので、このはじめの設定自体からとても興味深かった。
そして、けっきょく、掛かったら100パーセントの人が死ぬという恐ろしい病気でも、かかる人が少ない場合、政府もあまり動かず、原因や治療法、ワクチンの開発も進まないこと、治療法が分かってきても、製薬会社も採算があわないと判断すれば、まじめに新薬の開発をしないこと......
そんな、別の意味の怖さも伝わってきた。
人数は少なくても、かかる人がいるということは、自分や愛する人がその病にかかるかもしれない可能性をいつも含んでいる。
でも、人は、その立場に実際に自分がおかれなければ、すべては「人ごと」として捕らえてしまう。

非常にレアな病気で苦しんでいる人は、きっと、今も現実に、多いのだろう。

新種の病気がはやり始めたとき、政府や研究者はどう動き、どんなふうに原因や治療法を探っていくのか、そんな普通の人は決して知らないようなことが緻密に書かれているので(山田さんは、製薬会社に勤めていたことがあるらしい)、本当、興味深かった。
豚インフルエンザがはやっている今、読むと、怖い、というのはあるけれど、ある意味、今だからこそ面白い、ということも言える。

2009年4月23日

「天使の代理人」山田宗樹

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「嫌われ松子の一生」に続き、山田さんの作品をまた読んでみた。
 やっぱり上手い!
 
 好きな作家というのは、もちろんたくさんいるけれど、大体は「〇〇の部分にちょっと不満はあるけれど、でも、やっぱ、いいいんだよね~」という「好き」。
 でも、山田さんの作品は、文句のつけようがなく「上手い」。
 しかも、その上手さは、数をこなしたあとに身につけた職人的(だからこそ、どこか人工的。たとえば重松清さんとか......)な上手さではなく、個性とか主張とか深さとかそういうものとも、しっかり共存した上手さ。
 去年は、伊坂幸太郎さんに出会い、一目ぼれするかのように、その作品にはまり、1年でほとんどすべての伊坂作品を読んだけれど、今年の一番の出会いはこのまま行くと、山田宗樹さんの作品かもしれない。

「天使の代理人」は、一言で説明すると「中絶」がテーマの話。
 で、基本的には、「中絶反対」の立場で書かれている。
 ただ、独りよがりの、声高な主張なわけではなく、「助産婦として中絶の補助をし続けた罪悪感から、中絶反対の活動を始めた五十歳くらいの独身女性」「医療ミスでせっかく授かった子供を中絶させられてしまった二十代の女性」「迷いなく、あっさりと中絶をした二十歳の学生」「銀行でしっかりとしたキャリアを築いている三十代後半の女性」など、色々な立場、様々な考え方、価値観をもった女性の視点を使い分け、ある意味では、淡々と、論理的にストーリーを展開する。

 その、本当はあるのかもしれない主張の熱さと、感情的にそんな「主張」に流されない計算された物語の構成が、本当に上手い。
 すべての人がきちんと生きていて、リアリティがある。テーマは重く、笑いはないけれど、だからといって希望がないわけではなく、みんな悩みながらも、どこかで間違った選択をしながらも、基本的に心が綺麗だから、救いがあって、読後感はいい。

 この人間の書き方の上手さは、乃南アサさんにも似ている。
 乃南さんも、ミステリー作家ではあるけれど、いわゆるミステリーではなく、なんのトリックも、どんでん返しもなくても、「感情移入」だけで読ませてしまうところがあるけれど、そんな感じ(乃南さんの傑作は、「<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/457550579X/nagi-22/" target="_blank" title="風紋">風紋</a>」。犯罪被害者の家族をひたすら追った話だけれど、主人公が実在の人物に思えてならなかった。読み終わってしばらく経っても、あの子、大丈夫かな、と心配しちゃうくらい)。
 でも、男性が、女性だけ五人ほどの視点で物語を書いて、まったく違和感を生じさせないってすごい。しかもテーマが、中絶、妊娠、出産......と、男性が真正面からとりあげるものとは思えないものだというのが。
 後半、話に入り込んでいたので、あとがきを読んで書いたのが男の人だと思い出し、「うわぁ、そうだった。それって、すごい!」と改めて興奮してみました。

 しばらく追い続けたい作家さんです。

2008年7月21日

「ぐるりのこと」


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橋口亮輔監督の6年ぶりの新作。
そのあいだ、鬱にかかっていたり、色々大変だったようだけれど、 そういうのを乗り越えてきたからこそ見えてきたものを描ききった のだろうな、という傑作だった。

生まれたばかりの子供を失った女性の、心の痛みが中心なのだけれ ど、夫婦の絆によって「再生」していく物語。

夫役のリリー・フランキーさんが良かった。

やっぱり最後に支えとなるのは、「家族」なのだな、という気がし た。
ただ、支えてくれる人がいるということともう一つ大切なのは、 本当につらいとき、つらいと外にアピールすることなのかもしれない。

派手さはないけれど、心に迫ってきて、心の奥に眠らせていた痛みを じわっと昇華させてくれるような映画だった。
最後にはあたたかい気持ちになれるいい映画だった。

前の橋口監督の作品は、繊細で勢いがあるけれど、どこかばらばら な感じがあった。
でも、今回は、すごく完成されている世界だった。
作り物くささがなくて、あぁ、分かる、って。
だから心が少し痛くもなるけれど、痛みを感じるからこそ、救いも 感じられる。

今回は、様々な裁判のシーンを挿入することで、時代を映しだした り、他の人の心の動きを取り込んだり、そういう「工夫」もされて いたけれど、奇をてらわず、まっすぐ、テーマに向き合っている 作品、という感じがした。

 

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