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凪~小説・写真サイト~ 小説・映画などのレビューで“ 傑作 ”タグの付いているブログ記事

2010年4月11日

奥田英朗「町長選挙」

町長選挙 (文春文庫)町長選挙 (文春文庫)

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最近、ぼけていて、以前読んだ本を買ってしまったり、以前見た映画のDVDを借りてしまったりする......。

この「町長選挙」も単行本のときに読んでいたのに、忘れて文庫本を買ってしまった(汗)

でも、再び楽しめた。

この作品は、「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」に続く、精神科医・伊良部先生が主役の第3弾のコメディ。

短編4つで構成されていて、最初の3つは、名前を変えているけれど、あきらかに巨人のオーナー渡辺さん(今もオーナー?)、ほりえもん、黒木瞳を風刺した内容になっている。

単行本で読んだときはそれなりに「今」の話だったので、おもしろおかしく読みながらも、こうやって実在の人物を使うのはどうかな......と思い、「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」に比べるとちょっと落ちるかな、と思っていたけれど、時代のブームが去って、改めて読むと、なかなかよく考えて組み立てられている作品だなぁ、と思った。

「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」「町長選挙」とも、なにか心に不安などがあり、それがなにかしらの症状になって表に出てきてしまっている人が、精神科医の伊良部先生のところに行く、というところから始まる。
でも、伊良部先生は、太った子供みたいな、「馬鹿としか思えない」おじさん。
ただ、人目も気にせず、脱力して、超自然体で生きている伊良部先生が、呟くような感じに口にする言葉が、案外的を射ていて、ちょっとずつ「患者」が快方に向かう、という話。
すっごく簡単にまとめると。

この話は、ただひたすら、伊良部先生のキャラクターの魅力によって作られている。非常にバカなようで、でも、もしかしたら、ものすごく色々なことを考えていて賢いのかもしれない、とほんの一瞬思わせ、でもやっぱり、バカなんだろう、としか思えない......というキャラクター。

一つ一つの行動や、言葉が非常に面白い。

でも、1回目読んだときは、ただ「コメディ」として読んで、笑って楽しんで終わりだったのだけれど、改めて読んでみると、意外と深いテーマがそこに潜んでいるようにも思えるし、一人ひとりの患者の「立場」と、現れる「症状」と、「解決策」が素晴らしく説得力のあるつくりになっているということにも気づく。

改めて、奥田さん、すごい!
と、読み返してみて思った。
このシリーズ、読んだことがない人は、本当、読んで!!
これぞ、エンタメ小説!

2010年2月 7日

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」


ゴールデンスランバーゴールデンスランバー

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本屋大賞受賞作「ゴールデンスランバー」をようやく読んだ。
こういう重たい単行本はなかなか持ち歩く気にならないので、家でちょっとずつ読むことになり、その結果、なかなか読み終わらないのでだけれど、非常に伊坂さんらしい、楽しい本だった。

ストーリーは、「首相暗殺犯に気づいたら仕立て上げられ、必死に逃げる」と、簡単に説明するとそれだけだけれど、「魔王」などから続く、政治的な力に対する想いがテーマになっている。
ただ、真正面からそれを受け止めて書くと非常に暗く重い作品になってしまいそうだけれど、伊坂さんの作品ではそうはならない。
どんな危機的な状況であろうと、冗談を言ったり、思わず笑ったりする余裕が伊坂さんの作品の登場人物には常にある。それがいいのだろうな。

逃げるさなかに起こる一つ一つの出来事が、すべて「ちょっとありえない」感じなのが、「ただ逃げるだけの作品を決し飽きない起伏のある作品に仕上げている。
伊坂さんの作品の魅力は、ストーリーよりも、キャラクターと一つ一つの小さな設定を考える発想力なんだな、ということを改めて感じた作品だった。

伊坂さんの小説は、半分くらいが既に映画化されているけれど、この『ゴールデンスランバー』も近々映画化されるらしい。テレビのCMも良く見るから、配給会社もかなり力を入れているな。

伊坂さんの作品を原作とした映画に堺さんが出るのは、『ラッシュライフ』につぎ、2回目。
堺さんのちょっと飄々とした雰囲気が、確かに伊坂さんのワールドにマッチしそうな気がする。

2008年6月29日

「ザ・マジックアワー」


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 土曜日は、三谷幸喜さんの最新作「ザ・マジックアワー」を観てきました。
 期待を裏切らない傑作でした。
 映画館で何度も声を上げて笑いました。
 でも、ああいうおもしろい作品を作っているとき、三谷さんはいつもすご く深刻な表情だとか。
 それも分かる気がします。
 本当にいい作品って、精密機械のようなものだと思います。
 ちょっとでも何かが狂うと、ダメになってしまう。
 行き当たりばったりに見えるからこそ面白い笑いの世界の向こうに、緻密 な職人の世界を感じるとき、「いい作品を観たな」としみじみ思ったりします。

2005年7月 7日

「豊饒の海-春の雪」


春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)

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墓場まで一冊だけ本を持って行かれると言われたら何を選ぶと聞かれ、私の答えるのはこの本。
最近はちょっと純文学というものに愛想をつかし始め、エンタメもいいよなぁ、芥川賞なんて獲らなくても、多くの読者に愛される作家になりたい、なんて思ったり、言ったりしている私だけれど、やはり自分にとっての文学の原点は三島! そしてこの「豊饒の海」! ただ実は好きなのは第一巻の「春の雪」だけで、一巻だけは数回読んだけれど、二巻以降は一回しか読んだことがないし、内容は忘れているのだけど(笑)

で、なんで今日、この本を出してきたのかというと、またテレビで、「映画化」の話が出ていたから。
映画化は4月頃に決まっていたらしいけれど、役者が妻夫木君と竹内結子であること、音楽は宇多田ヒカルの新曲になるということを今回初めて知った(ちなみに監督は行定勲監督)。

役者は二人とも嫌いじゃないけれど、あまりにこの小説に対する想いが強くて、誰を選ばれても受け付けられない気がする......。特に宇多田ヒカルの横文字のタイトルの曲が主題歌だなんて......と、そこでまた反発。
いつ公開になるのかは知らないけれど、多分気になって見に行って、でも気に入らなくてぶつぶつ言うんだろうなぁ、私、と今から思っている(笑)
まぁせめて三島を読んだことのない人に、「原作を読んでみたい」思わわせるような美しい作品に仕上げてもらいたいな~。と、切に思う。
そしてこのブログをなんの縁でか見に来てしまったあなたには、是非、原作を読んでくれ~!と、とりあえず叫んでおきます(笑) 結局文学って映画ほどメジャーじゃないから、本が映画化されると、本自体より映画のイメージが世に広まっちゃうところがあると思うんだよね。......それを今からちょっと危惧しています。あの世界の美しさは、絶対、三島のあの文体によってしか生まれないのに!! と、久々に熱くなりました(苦笑)

2005年7月 6日

「ミステリーの書き方」アメリカ探偵作家クラブ著


ミステリーの書き方 (講談社文庫)ミステリーの書き方 (講談社文庫)
L. トリート

講談社 1998-07
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私はミステリーは書かないのだけれど、「先を読ませる」という点で一番勉強になるのはミステリーを読むことであり、ミステリーの構造を真似ることだと思っている。
ということで、この本は気になったので読んでみた。
第十章の「殺人その他の犯罪捜査」だけ、アメリカの警察の仕組みだとか指紋の取り方だとか、ミステリーにしか使わないよなぁ......という感じのものだったけれど、その他は、「結局読者を楽しませようという気持ちにおいては、ミステリーもその他のジャンルのものも大して変わらないよな」と思える内容になっていて、かなり刺激にも勉強にもなった。
HOWTOものを毛嫌いする人も多いとは思うけれど、こういう本は実用的な小手先の技術を身に付けるものではなく、書くということに対する姿勢を学ぶものだと割り切って読めばいいのではないかな。「ベストセラー小説の書き方」を読んだときも感じたけれど、やはり成功する人は努力している、そして、正しい努力の仕方を知っている......ということが分かる。

この本はアメリカで有名なミステリー作家に対するアンケートの結果をまとめた章と、各作家が三、四ページほどの長さずつで一つのテーマ(「ストーリー」「アウトライン」「プロット」「文体」「描写」など)を語る章で構成されている。
どちらもおもしろいけれど、「なぜ書くのか」「アイディアの見つけ方」「ミステリーの秘訣」について何十人もの作家の数行ずつのコメントを羅列している章が特におもしろいと思った。
「なぜ書くのか」には、同じ物書きとして頷けるところが多かったし、「ミステリーの秘訣」はミステリーに限らず、できるだけ苦しまずに書き続けるコツが、それぞれの作家の言葉で語られたりした。
私は最近、書くためにパソコンに向かうのが憂鬱に思えてしまうことがちょっと増えてきてしまったのだけれど(昔はただただ楽しかったのだけれど、良い物を書きたいという想いが強くなればなるほど、書くことに苦しむようになるのかもしれないと、この頃感じている)、それには「うまくいかないから書きやめるのではなく、次の数ページに何を書くのか分かっているから書きやめるのなら、再び机に向かう熱意もあろうというものである(ミリアム・リンチ)」「一つの章や節を終わりにしたところで、1日の仕事を終わらせてはならない。たとえわずかの一段落でも、ただちに次の部分を書き始めよ。そして文章の途中で書きやめるのである(エリザベス・オギルビー)」などのアドバイスが役立つ気がした。

他、それぞれのテーマを挙げる部分では、一番「削除」についてが心に残った。初心者は自分の書いた文章を勿体ないと思ってなかなか削れないけれど、削ることによって作品は見違えるほど良くなるということを覚えておかなくてはいけない、というような内容。耳が痛いです......。
それから気になった文章を抜くと......
「なによりも先ず、読者に登場人物の身の上を心配させなければならない」
「見せよ。語るな。見せるとはアクションのことであり、ものごとのかかわり合いのことである。語るとはアクションの準備または説明であり、本来、不必要なものなのである」
「(作品は手直しされて初めて完成するという話で)『完』(と小説を書き終えてタイプすること)とはスタートに過ぎないからである。このことを信じることができない、或いは信じようとしない作家は、残念ながら可能性は全くない作家であり、いずれ消え去る運命にあるのである」
「一冊の本を途中まで読んだら、私は自分なりに謎を解く。もしそれが間違っていれば、私は新しい解決法と、おそらく新しい犯人を知ることになる。これが新しいストーリーを作るに当たってプロット展開に利用できるのだ」
なるほど、ですね。
以前、日本の作家が、小説の帯や売り文句からどんな話なのか想像すると大抵、そのものとは全く違う小説ができあがるから、それが自分のオリジナルの作品になると言っていたけれど、それと似ているかもしれない。

と、長くなったけれど、色々な「なるほどなぁ~」が詰まっていてとっても密度の濃い本でした。ミステリーを書く気はなくても、文章を書く人なら読んで損はないです!

 

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