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凪~小説・写真サイト~ 小説・映画などのレビューで“ 上手い ”タグの付いているブログ記事

2010年6月22日

朝井リョウ「桐島、部活やめるってよ」


桐島、部活やめるってよ桐島、部活やめるってよ
朝井 リョウ

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去年の「小説すばる新人賞」受賞作を読んだ。
現役の大学生(今までは、女子高生や女子大生が多かったけれど、男の子)が書いた青春小説ということで、TVなどでも話題になっていたから、気になってはいたけれど、正直、そう期待はしていなかった。

ただ、本屋で数ページ読んで、滅多に単行本など買わない私が、衝動買いしてしまった。
ものすごい引き込まれた。途中まで読んで、「うわぁ、すごいなぁ」と思い、最後まで読んでも、やっぱりよかった!

賞の傾向をつかむために、新人賞受賞作は結構読むのだけれど、デビュー作でこんなに満足感を味割ることは滅多にない気がする。
私の密かな自慢は、デビュー作を読んで「この人は、今後活躍する」「この人は、この1作だけだな」という読みが大体当たること。
朝井さんも絶対、書き続けていく人だな、と思う。
焦って変な2作目を出してはほしくないけれど、次の作品が楽しみ!
ただ、こういう「若い感性」をずっと保ち続けていかれるのか、それとも、ある時点で作風を変えるのか、20代後半以降の方向も気になるな。

と、がーっと書いてしまったけれど、どんな作品かというと、5人の同じ高校の生徒の視点から書かれた5つの短編集。
タイトルの「桐島」は、バレー部のキャプテンなのだけれど、桐島はバレー部の生徒の視点で書かれた1つの短編のなかの回想シーンに何度も登場するだけで、あとはちょっとした会話の端に現れるくらいしか出てこない。
ただ、「桐島」が部活をやめることによって起こった小さな変化を、それぞれの生徒の視点で描いていき、最後には、なんとなく1つの作品にまとまっている。

この、「え? 桐島って結局、それしか登場しないの?」という驚きの構成もすごいけれど、この作品の何がすごいって、描写力だと思う。
文学っぽい、きどった描写じゃなく、若者の方言混じりの日常的なコメントが、心に響く。

きっとほとんどの人は、自分の高校時代を思い出すんじゃないかな。
自分の高校時代には携帯なんてなかったし、随分違うんだけど、心の中にあるうまく表現できない痛みとか迷いみたいなものは、いつの時代も共通なのだろう。

お薦め!!!

2006年3月28日

絲山 秋子「沖で待つ」


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最近ちょっと小説を読む余裕がなく(気持ちの、かな)、なんだか久しぶりに読んだ。
さらりと読めるし、淡々としているけれど、必要なことは伝わってきて、やはり上手いな、という気がする。
「同期との絆について」という説明だけ知っていたけれど、想像していた以上にあっさりした書き方で、でも想像していた以上に好感を持てる素敵な関係だった。
私はどうも主人公の心情を事細かにかきすぎて鬱陶しく感じさせてしまうタイプのようで、今はその心情を削ることに専念しているけれど、今習っている先生いわく、削るだけじゃなくて、語り口に工夫をしてその心情吐露を「読ませる」方法もあるということ。絲山さんのこの書き方も「読ませる」書き方なのかな。でもやっぱり、全体的に心情吐露を抑えているのかもしれない。
事実の描写と心情の描写のバランス、今はそれを一番学びたいな。

ということで、上手いな、と思えた本でした。
本当にさらりと読めてしまう短さなので是非どうぞ。

2006年3月 9日

「クラッシュ」


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 アカデミー賞の主要三部門受賞ということで、ついつい見に行ってしまった。どちらかというと「ブロークバック・マウンテン」の方に惹かれていたのだけれど、まだ渋谷の一館でしかやっていないみたいなので、数週間待ってみます。

 感想は、なかなかバランス感覚に優れているなぁ、という一言かな。重いテーマを扱っているのに、見終わった感じも爽やかだし、かといってすべてを無理矢理ハッピーエンドにしてしまわないリアルさが残り、拍手!だった。
 テーマは人種差別についてで、アメリカ社会で、黒人やアジアの様々な人が白人から迫害を受け、つらい思いをしているというような内容(その一方で、黒人は白人に復讐をくわだたてり、もっと弱い人種を痛めつけようとしたりするのだけれど)。それを複数の人物の視点から描いている。一言で黒人といっても、そのために社会からドロップアウトしてしまったような人もいれば、白人と対等にキャリアを築いている人もいる。外国人を差別する白人がいると思えば、もっと広い心で接する白人もいる。
 初めはちょっと差別の描き方が、やりすぎでは......とも感じたけれど、それは日本に住む日本人だから思うことかもしれない。それがやりすぎかどうかはアメリカに住まないと多分分からない。
 それ以外では、誰に肩入れしすぎることもなく、ただ人種にかかわらずみんないいところも悪いところもある「人間」なのだという視点がしっかりとあり、好感が持てた。重いテーマなのに、暗くなりすぎない描き方は上手いなぁと思ったし、やはりラストが私は良かったと思う。
 様々な視点人物すべてがいっぺんにハッピーになってしまったら、それはいかにも作り物なのだけれど、良いことも起これば悪いことも起こる。状況が変わらない人もいる。それをしっかり見せながら、それでも見る人を爽やかで救われた感じに持って行けるというのは才能だ。才能と言うより、バランス感覚、センス、という感じかもしれないけれど。初めは良い:1 悪い:9 くらいだったものが、ラストは良い 5.5 悪い 4.5くらいの比率になり、それで救われた感じがする。でも、問題はまだ残っている。本当、この終わらせ方は勉強になった気がする。結局日本の安易なエンタメみたいなまとめかたをしちゃうと、すがすがしさは残るけれど、「あぁ、おもしろかったね」で、心になにも残らなくなってしまう。でも逆に「ミュンヘン」みたいにすると(よほど強烈なインパクトはあったらしい......最近しばしば「ミュンヘン」と色々な作品の読後感?を比べてしまう(笑))、テーマは心に刻まれるけれど、気分が暗くなりすぎる。......そのバランスが大切だとこの頃、けっこう考える。

 BBSには書いたのだけれど、最近、地方の賞の最終で落ちた。でもそのときの選考委員の藤沢周さんの言葉が良かった。
「最終候補に残った作品はいずれも文章が達者であったが、人生の内実に筆致が迫り始めるというとき、簡単に登場人物を救って、物語をまとめる傾向が散見された。これでは現実をナメているといわれてもいわても仕方ない。そして、小説をナメているとも。まずは残酷なほどクールに自己を見つめるという視線が必要であると思う。またそれこそがリアルというもの謂いである」
うわぁ、分かる!って気がした。
最近の私のテーマは、この「ラストのバランス」。
そういう意味では、とても勉強になる映画でした。

......という個人的なことを置いておいても、やはりアカデミー賞とるだけあるな、という作品だった。
ただ残念だったのは、あまりにもバランスが上手くできすぎていて、やはりインパクトにはちょっと欠けたかな、というあたりかな。


 でもアメリカ社会も大変だなぁ。ああいう状況でだったら、人を疑って生きるしかないような気がする。最近の日本もちょっとずつそうなっていてそれは悲しい。
 新聞におじいさんが投稿していた。子供が落とし物をしたから声をかけたら逃げられた、と。
 人を疑えと子供に教育しないといけない社会って、本当に悲しいと思う。

2005年8月10日

安達千夏「あなたが欲しい」


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七年前の「すばる文学賞」受賞作。
五年前から「すばる」の受賞作を読むようにしているので、最近のものはほとんど読んでいるのだけれど、新しいのを読みつつ、たまには遡って。

どこの文学賞でも同じだと思うけれど、受賞したからといって、そのまま文壇に残れるかというとそうではない。生き残っていかれる(つまり、2作目、3作目を本にできる)人は3人に1人もいない計算ではないかと思われる。
そのなかで安達さんはきちんと生き残り、本を出し続けている作家だ。


普段は受賞してすぐに作品を読むので、その一作を読んでみて長く生き残りそうか、芥川賞の候補になりそうかなどと予測しながら読むのがちょっと楽しかったりする。
大抵私の読みは当たる。「なんでこんなのが......」と思うと、その作家は大抵一作で終わる。
何を偉そうなこと言っているんだという感じだけれどね(笑)
でも、とりあえず良い作品を見抜く目はあるということだから、あとは自分の作品を冷静な目で見られるようになりさえすればいいということなわけで。多分。

と、話はずれまくっているけれど、この作品は、「今もきちんと活躍している作家の受賞作」という知識がなくても、「この作家はいいところまでいく」と思っただろうな、という確かな手応えのある「受賞作」だった。
簡単にまとめてしまうとこれは、女性に恋愛感情を抱きながらも、男とセックスをする女性の話。ただその男とも恋愛感情ではない、もっと深い「同士感覚」みたいなもので結ばれているのだけれど。
多分作品の半分近くは性的なシーンに割かれている。セックスの描写のある小説はいまどき珍しくもないけれど、ここまでしつこく描かれているのはちょっと珍しい気がした。
ただ初めはその性的な表現や欲望のストレートな表現がいいだけなのでは、と思っていたし、主人公の女性にどうも共感できなかったのだけれど、次第に彼女の気持ちが少しずつ分かるようになっていった。そして、その「説得力」に触れたとき、上手いなぁと素直に思った。彼女が「家族」というものを否定しながらも、家を売る仕事を続けていること、幸せな家族を持つ同級生に初めは批判的な感情を持ちながらも、次第に心を通わせていくこと、彼女と体の関係のある男が、チンパンジーやジャングルに惹かれていること、彼女の好きな女の子が美術に興味を持っていること......すべてが段々と「必然的」なことに思えてきた。
主人公も少しずつ自分の心を真っ直ぐに見つめ、社会から批判されないための鎧を少しずつ外して素直になっていく。そして多分、一歩幸せに前進する。
初めは現実や家族や愛というものにとても批判的な、暗い作品だと思ったけれど、それがしっかりと明るい方へ向き始める。一般的なハッピーエンドではなくても、彼女たちなりの形での。
私は彼女たちとはまったく違う世界に生きているのに、それでもなぜか応援したいような、ほっとしたような気持ちになった。
そして、それってすごいことだなぁと感じた。上手い!


個人的に好みかどうかと聞かれると、ものすごく好きというわけではないけれど、嫌いではない。そして、この人の技術をもっと学びたいという意味で、他の作品を読みたくなった。
深みがあり、なおかつ人の心を温かくできるような作品を書きたいな、私も。

2005年8月 1日

島本理生「ナラタージュ」


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はまった。
島本さんの作品は、以前読んだときから、上手いなと感じたけれど、今回はもう、若い作家だとかそんなことは忘れ、純粋に楽しませてもらった。
本を読んでいる時間をこんなに愛おしめたのは久しぶり。
ツボにはまったという意味では、ばななさんの「白河夜船」以来かも。
ただまぁ、「白河夜船」をばななさんの代表作と言う人はいないように、私の好みは人とちょっとずれているかもしれないので、非常に主観的な評価だけれど。

最後の方はかなり泣ける。
もっとわがままを言って引き留めれば、一緒にいられるんじゃないかと思ってしまう。
お互い必要とし、惹かれ合っているのに別れるのは悲しい(最後別れるのは、初めからきちんと書かれていて分かるので、ネタバレしているわけじゃないですよ)。
けど、相手のことを思いやったり、そう言いつつ実は自分が傷つくのが怖かったりして、あと一歩を踏み込めず、大切な人を手放した経験が、次の恋を手に入れる力になったりはするのよね......なんて、もう遠い昔の自分を思い出してみたりする(笑)

私がこの本にはまったのは、「切なさ」を上手く描いているものだったから。私が一番美しいと感じる人の感情は「切なさ」。もちろん「思いやり」とか「愛情」っていうのも美しいのだけれど、書き手として一番心を惹かれるのは「切なさ」なのよね。
だから本当、こういう話には弱いね......。
葉山先生も、小野くんも上手く描けていて、魅力が伝わってきたし、それぞれの別れとかマイナスの感情とか、そういうものの理由もよく分かった。多分設定の細かいところまで気を使っているのだろうな、色々なことがとても納得できて、だからこそ、どうにもならない感じが切なかった。

正直、かなりの長さだから、途中ちょっと中だるみを感じるところもあったけれど、でもやっぱり全体としてこれだけの長さがあり、時間があり、淡々としているようでいて、すべての時間には意味があり、この話ができあがっているという気がした。
以前読んだ小説の書き方の本で、短編では必要最低限のことを書くように心がけないといけないけれど、長編では冗長に感じられるところにこそ個性が出るから、削りすぎない方がいいと書かれていたけれど、そんな感じかもしれない。
ここのところしばらく50枚くらいの作品を書いていたので、長い作品も書きたいなぁという気持ちになった。

色々語りたいことがあるようで、いい作品って結局は自分の心のなかで「良かったなぁ」と完結してしまうところもあり、上手く語れない......。
あと最近ついついリンクを貼るついでにアマゾンで人の評価を見てしまうのだけれど、意見って本当さまざま分かれるものなんだなぁ~と感心するほど。
だから、すごくいいから読んで!とは薦められないのだけれど(分かる人には分かるけれど、分からない人にはさっぱり分からないだろうタイプの小説だし......)、ま、是非気が向いたらちょっと手にとってみてください! 10~20ページぐらい立ち読みして、すっと入りこめたら、きっとおもしろくて一気に読めるはずです。

 

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